米国、中国発「SHEIN」を標的に
昨年発表された「EUテキスタイル戦略」では、脱ファストファッションが掲げられています。この考えは一般論としては受け入れられていますが、現実にはまだまだ元気なファストファッション・ブランドが市場に存在します。その代表格が「SHEIN」でしょう。トレンドの服や雑貨を大量に生産し、低価格で市場に投入するビジネス・モデルは、様々な弊害を含みつつも消費者の支持を失ってはいません。しかし米国では、そのようなビジネスにおける人権侵害や知的財産権の侵害が指摘され、問題視されています。私たち消費者は、自分たちが購入する様々な製品の背景について、一層注意を払う必要がありそうです。
2023年5月8日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“米連邦議会で中国発のネット通販企業への規制強化案が浮上している。新疆ウイグル自治区での人権侵害や個人情報漏洩への懸念があるためだ。通信機器王手の華為技術(ファーウェイ)や動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」に続き、米中対立の火種になりそうだ。米議会の超党派諮問委員会「米中経済安全保障再考委員会(USCC)」がこのほど、中国のネット通販企業を問題視する報告書をまとめた。このうち、強制労働や知的財産権の侵害などに懸念があるとして矛先になったのが中国発祥の「SHEIN(シーイン)」だ。”
“シーインの人気は米国で「ZARA」や「H&M」など欧州ブランドをしのぐ。低価格のアパレルや雑貨を販売する国・地域は日本を含め150以上あり、毎日のように大量の新製品を販売して若者の支持を得てきた。一方、取引先の縫製工場の労働環境が劣悪だと批判されたことがある。著作権をめぐるトラブルも度々起きている。”
“シーインの運営企業は現在、シンガポールに本社を置く。シーインが米国で計画する新規株式公開(IPO)をめぐり、超党派の米議員団は米証券取引委員会(SEC)へ書簡を送付。新疆ウイグル自治区での強制労働をしていないと同社が立証するまでIPOを認めないよう求めた。2022年6月施行の米国のウイグル強制労働防止法では、自治区が関与する製品の輸入を原則禁止している。シーインは縫製工場などの取引先に強制労働の禁止を含む関連法の順守を求め、綿製品についてはオーストラリアやブラジル、インド、米国など承認された地域からの調達のみを認めていると説明している。”
“シーイン以外の中国系ネット通販も、米国の新たな標的に浮上した。低価格品の電子商取引(EC)アプリを展開する「Temu(ティームー)」はSNS(交流サイト)を活用し、今年2月上旬時点で米国での無料アプリダウンロード数で首位。中国のPDDホールディングスが昨年秋に米国で始めたサービスだ。中国では低価格が売りのネット通販「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」を展開し、アリババ集団など大手のシェアを奪っている。米政府はこれまでもピンドゥオドゥオについて「著作権侵害を助長しているサイト」と名指しで批判してきた。”
“USCCの報告書をまとめたニコラス・カウフマン政策アナリストは、シーインなどが新疆ウイグル自治区から「商品を調達しているようだ」と指摘。「デザインを無断で使用されている独立系のアーティストには特に問題だ」とし、米国民の知的財産の日常的な侵害を訴える。上下両院の議員と大統領が指名した政府高官で構成する「中国問題に関する連邦議会・行政府委員会」は4月、この問題で公聴会を開いて集中討議した。議長を務めるクリストファー・スミス下院議員(共和党)は「法律を無視しようとする悪質な企業に強制執行を求め、監視の目を向ける」と強調した。”
“米国の制度では輸入貨物の申告額が800ドル(約11万円)以下の場合は、原産地などの情報を申告せずに輸入が可能。出席者の一人は「奴隷労働による商品がチェックされずに入っている」と話し、ウイグルの綿などが使われていないか検証できていない「法の抜け穴」があると説明した。米政権は労働者保護や人権重視の姿勢を強調し、グローバルに事業展開する中国企業を標的にしてきた。ファーウェイでは情報流出による安全保障上の懸念から制裁に動いた。TikTokは中国政府による情報操作に利用されるとの疑いを持つ。”
“米通商代表部(USTR)のタイ代表は4月に日本を訪問し、米アウトドア用品大手・パタゴニアの東京都渋谷区の店舗を訪れて「世界中の労働基準を引き上げたい」と述べた。グローバルなサプライチェーン(供給網)から強制労働を排除するよう訴えた。中国発のネット通販企業に議会からの厳しい声が強まれば、バイデン政権も具体策を打ち出す可能性がある。USTRで代表補代理を務めていた米ユーラシア・グループのデビッド・ボーリング氏は「中国の不公正な貿易慣行に対応するのがバイデン政権の貿易政策の大きな原動力だ」と強調している。”