号外:遅れない日本の鉄道、ダイヤ作成の基準が国際規格に

日本の鉄道は悪天候や事故のようなアクシデントがなければ、まあ遅れないですね。通勤電車が2~3分遅れただけで、「列車遅延をお詫び申し上げます」といった車内放送が流れます。私が乗っていてもまったく気にしていないのですが。新幹線の「定時性(ダイヤ通りに運行されること)」に至っては、信じ難い神業に思えます。以前ドイツに住んでいた時には、都市部の通勤電車や欧州の都市間を結ぶ高速鉄道を使った経験がありますが、頻繁に遅れていましたので、ある程度遅れる想定で利用していました。アメリカに住んでいる時には、そもそもあまり鉄道が普及していないので、長距離の移動はほとんど飛行機+レンタカーでした。ニューヨークの地下鉄や近郊の街への列車を利用したことはありますが、こちらもダイヤ通りに運行されているという印象はあまりありません。日本の鉄道がダイヤ通りに安定して運行されているのには、ちゃんと理由があること、また、そのノウハウが国際規格に採用されるように努力しているという話題です。色々なビジネスで国際展開する際に、自国・自社の強みを国際規格化するということは、非常に有効な手段です。しかし日本は、例えばEU(欧州)と比べて、そのような戦略があまり得意ではないように感じます。本件のように、日本の優れた技術やノウハウをもっと世界にアピールしていければと思います。

2023年4月4日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

日本の鉄道は世界で最も時間に正確といわれている。その強みに基づく国際規格ISO24675-1「鉄道分野-輸送計画のための運転時分計算-第1部:要求事項」が2022年10月14日に制定された。日本が提案して議論を主導し、成立にこぎつけた。規格制定の狙いは、国内鉄道事業者の海外展開だ。海外で鉄道の建設や運行といった事業では、仕様書に「〇〇規格に準ずる」と書かれることが多い。列車の定時運行に関して、ほぼ世界一といえるノウハウや実績を日本は持っているのに、海外で適用しようとしたら規格が異なっていて修正を余儀なくされる、という事態は避けたい。先回りして日本のやり方を規格にしておくべきだ、と鉄道総合技術研究所(東京都国分寺市)の鉄道国内規格センターが中心になって動いた。”

“ISO24765-1は、ダイヤ作成の基礎となる運転時分の計算に必要な12の入力項目を規定した。運転時分とは、駅を出発して次の駅に到着するまでの時間であり、近年ではコンピューターを使って計算するのが通常である。12項目は「線路の勾配」などの設備に関するデータ、「車両の重さ」など車両に関するデータ、「停車または通過の別」など運転条件によるデータから成る。多くが物理的な量で、(力学などの)物理的理論による計算に用いるという。”

運転時分の計算

“さらに、計算が妥当かの検証方法を規定。例えば、「線路の勾配」だけを増加させた場合には、運転時分が大きくなれば、計算が間違っていないと考えられる。このように、1項目の変化による運転時分の増減を12項目それぞれで確認する、と規定した。この規格が対象とするのは「ダイヤの計画業務」だ。正確な運行にはダイヤの妥当性が前提となる。ダイヤが妥当でないと、定時性を守りようがない。”

“鉄道総研鉄道国際規格センターは2017年から国内鉄道事業者やメーカーが規格原案などの検討を始め、2018年5月に国際標準化機構(ISO)作業部会に提案、2022年9月に国際規格化が可決され、2022年10月14日に発行された。偶然だが、日本にとっては鉄道150周年の記念日だった。規格化されたということは、この規格に準じて計算された運転時分は一定の妥当性があると国際的にみなされる。さらに、その運転時分を基に作成したダイヤも一定の妥当性がある。すなわち定時性を守るのに必要最小限の要件を持たしている、とみなせることになる。”

“日本が議論をリードできた要因として、日本の鉄道が定時性について世界から一目置かれていることが大きい。日本と海外で鉄道の定時性は単純に比較できるデータは無いが、そもそも何をもって遅れとするかの基準から差がある。例えば東海道新幹線の定時性は、全列車について遅れの平均で表現しており、JR東海の「統合報告書2022」によれば0.9分である。しかし欧州は定時運航率で表現しており、例えば長距離列車では「予定時刻と実時刻の差が5分以上だった到着の割合」(オーストリア、リトアニア、オランダ、ポーランドなど)とする場合が多い。5分以内の到着は遅れとみなされない。この基準がフランスでは5~15分(条件により変わる)、ドイツでは5分59秒、英国では10分、イタリアでは15分などに代わる。日本では遅れの基準はおおむね1分とされる。

“日本が議論を主導して規格化することが、どのように「日本の強みを生かす」ことになるのか。日本の方法が規格になっていれば、発注者がその規格を引用して仕様を決める可能性が高まり、国内事業者が海外に進出しようとした際に対応が容易になる。逆に、もし日本の方法と異なった規格が成立してしまうと、提供するシステムやサービスの修正を迫られてしまい、すなわち事業上の阻害要因になる。もともとの日本仕様から変更を行ったり、規格に適合していることを説明したりするために非常に大きな労力を費やすことになるのだ。このような事態を予防するために、先手を打つのが規格化の狙いだ。”

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