号外:G7、食料安全保障で途上国支援

「食料安全保障」というような重たい言葉を使わなくても、食料は私たちの生活に直結している最重要事項です。日本国内では、価格が安いか高いかは別として、大きな問題なく必要な食料が調達できているので、あまり危機感を持つことはないでしょう。しかしカロリーベースでの食料自給率は4割を下回っていますから、輸入が途絶えれば日本国内で食糧が不足することになります。「食料輸入が途絶えることなんてあり得ない」と高を括っていると、ひょっとすると大変な目に合うことになるかもしれません。

2023年4月23日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

G7農相会合 at 宮崎

主要7ヶ国(G7)農相会合は4月23日に閉幕し、途上国支援を通じて食料安全保障の強化を進めることで一致した。主要な穀物の在庫の5割超が中国に集中し、ロシアは小麦の輸出で2割を占める。中国とロシアが食料供給で途上国への関与を強めれば、G7の影響力が下がることへの懸念がる。宮崎市で開いた農相会合は4月22日から2日間の日程で協議した。会合後に採択した閣僚声明は「持続可能な農業」と「生産性向上」、「イノベーションの活用」の3つを掲げ、食料の安定調達・供給を目指す。G7農相で初の行動計画「宮崎アクション」も公表した。”

“最重要の課題と位置付けたのが食料安保の強化だ。声明にはロシアによるウクライナ侵攻が世界の食糧安保に及ぼす影響について「脆弱な途上国に与える悪影響を緩和することが不可欠だ」と明記した。不当な輸出制限をかけるなど「食料を武器化」することへの懸念も表明した。ウクライナの農業インフラの復旧支援にも取り組む。破壊された灌漑施設、倉庫、食品加工施設などの再建を通じ、「ウクライナの回復と復興を支援する用意がある」とした。小規模農家への資金や種子の提供、生産性向上のためのデジタル技術導入を例示した。G7の閣僚からはウクライナの穀物輸出が滞っていることをめぐって懸念を示す声が相次いだ。ドイツのエズデミール食料・農業相は「これまでと異なる輸出ルートを獲得しなければならない」と語った。

世界の食料価格推移

世界の食料価格はロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに高騰した。国連食糧農業機関(FAO)の食料価格指数(2014~16年=100)は2022年3月に過去最高の159.7に達した。足元は126.9で依然として高い水準にある。G7から見ると、現状は新興国の急激な経済成長が引き金となって2008年に発生した食料危機よりも深刻な状況にある。ロシアと中国がともに農業大国であり、世界の食料需給大きな影響力を持つためだ。”

ロシアはウクライナと合わせると世界各国の小麦輸出のうち3割を占める。小麦価格の指標となる米シカゴ市場の先物は2022年3月に最高値を付けた。ロシアとベラルーシなどに遍在する肥料原料も調達が不安定になった。中国は主だった穀物をかき集めている。米農務省(USDA)の推計によると、2022~23年(穀物年度、期末)の世界の在庫に占める中国の割合はトウモロコシが70%、コメは62%、小麦は52%に達する。過去10年間で20ポイント前後上がった。もともと中国は14億人分の食料を確保するために、輸入の動きを強めてきた。経済成長に伴い調達力が高まり、世界中の穀物が中国に集まる。「農業強国」を掲げて自国の生産体制も強化している。「厚い在庫を利用して、途上国への影響力を強める可能性がある」との指摘がある。”

途上国は人口の伸びに対して食料が足りず、経済力が乏しいために十分な輸入量を確保できない。世界の飢餓人口は途上国を中心に8億人にのぼるとされ、農相会合の声明ではSDGs(持続可能な開発目標)が掲げる2030年までに飢餓人口をゼロにする目標について「実現は遠ざかっている」とした。”

“G7は途上国の食料生産を支えれば、中国やロシアの影響力を和らげられるとみる。日本政府は農相会合に先立ち、国連の農業関連機関に約2億円を拠出すると表明した。技術支援などを通じて途上国の小規模な農業従事者を支える。声明は日本主導の取り組みを「歓迎する」と明記した。”

閣僚声明には食料の過剰生産につながりかねず、国際会議の場で言及が避けられてきた生産拡大も盛り込んだ。途上国の食料生産を増やすには、流通のインフラ整備も含めて巨額の資金が必要だ。G7は息の長い支援に取り組む必要がある。気候変動対策についてG7農相は、「万能の解決策はない」との認識のもと、「地域の環境・農業条件に最も適した措置と慣行の組み合わせを促進・実施する」と表明した。世界の温暖化ガス排出量の4分の1は農林業によるものだ。急速な脱炭素シフトが厳しい国・地域もあり、それぞれの事情に配慮するとした。”

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