号外:世界を襲う「海洋熱波」
世界の海が地球温暖化の影響で異常に暖まっているという話題です。日本では東北地方の太平洋沖で海水温が上昇し、これまで漁獲が多かった魚の回遊ルートが変わったり、生育が悪くなったりして、漁獲高が大きく落ち込んでいます。海面水温が上昇することで、多くの水蒸気を含んだ雲が日本周辺に流れ込み、台風や集中豪雨による被害を大きくしています。「地球温暖化の時代は終わり、地球が沸騰する時代がきた」という国連のグテレス事務総長の指摘は、決して大げさなものではありません。
2023年8月27日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“世界の海が地球温暖化の影響で異常に温まっている。米海洋大気局(NOAA)によると、世界の海面の約5割が8月に異常な高温状態になった。東日本の太平洋沖などが特に高温になっている。世界の海面の平均水温は過去最高を更新しており、気象や生態系、漁業への悪影響が懸念される。”
“特定の海域の水温が平年を大きく上回る現象は「海洋熱波」と呼ばれる。NOAAは人工衛星の観測データなどを分析し、「8月現在、世界の海域の約48%が海洋熱波の状態にある」と報告した。1991年以降で最も高い割合だ。2024年2月まで50%近くで高止まりすると予測する。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」によると、極域を除く世界の平均海水温は7月28日に20.95度となり過去最高を更新した。従来の最高は2016年3月だった。8月に入ってさらに日々更新し、22日には21.0度に達した。通常は3月頃にピークとなるが、今年は5月以降も上がり続ける異常な状況だ。大気に蓄えられた熱の9割を海が吸収する。この夏は世界的に記録的な熱波が発生しており、海水温の上昇が今後も続く見通しだ。”
“NOAAは日本では東北地方の太平洋沖で海水温が「平年より約2~6度高い」と分析した。海洋研究開発機構の美山透主任研究員は「世界的に見ても(東北沖は)平年との差が大きい」と指摘する。太平洋赤道域東部では海水温が高くなるエルニーニョが発生しており、南米西海岸沖では約2~4度高い。北大西洋や地中海でも広範囲にわたり約2~5度高い状態だ。国連のグテレス事務総長は7月、同月が観測史上最も暑い月になるとの見通しを受けて「地球温暖化の時代は終わり、地球が沸騰する時代がきた」と指摘した。温度の上昇は大気だけでなく海にも及ぶ。”
“海洋熱波が強まる要因として地球温暖化の影響が指摘されている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると海洋熱波の頻度は1980年以降に倍増した上、勢力が強くなり期間も長くなっているという。2006年以降に起きた海洋熱波のほとんどは人類の活動による温暖化が原因の可能性が非常に高い。”
“海洋熱波は魚や鳥の大量死を招くほか、赤潮などが起こりやすくなる。NOAAは海洋熱波によって世界で毎年数十億ドル(数千億円)の経済的損失が生じていると指摘する。2022年10月、米アラスカ州はズワイガニの個体数が減少しているとしてベーリング海での漁を初めて禁止した。NOAAは2018~19年にベーリング海で起きた海洋熱波が個体数減少につながったと考えられるとしている。2019年以降、東北沖では海洋熱波が毎年のように発生し、冷たい水を好むサケやサンマが沿岸に近寄らず漁獲が大きく減った。水温上昇による産卵海域の環境悪化でスルメイカの漁獲量も落ち込んだ。2021年に道東沖で大規模に発生した赤潮の再来も懸念される。水産庁の専門家検討委員会は北海道・東北沖の海水温の上昇が不漁の原因のひとつと指摘している。”
“生態系への影響も大きい。米国ではフロリダ州キーズ沖のサンゴ礁が大規模に白化した。サンゴは水温上昇に弱く内部の藻類が失われて栄養を得られなくなり白化する。この状態が続くと死んでしまう。2014~16年に米西方沖で起きた海洋熱波ではエサとなる魚が減り、海鳥が多数餓死した。水温の高い海域ではハリケーンなど熱帯性低気圧が発達しやすくなる。NOAAは8月10日、2023年のハリケーンの活動レベルが60%の確率で平年を上回るとの予測を発表した。「平年並み」としていた5月時点から引き上げ、11月末までのハリケーン発生数を上方修正した。大西洋の海面水温が記録的に高いことなどが影響するとみている。コペルニクス気候変動サービスのサマンサ・バージェス副所長は「温暖化ガスの排出削減のための取り組みが急務だ」と指摘する。”