号外:農研機構、CO2吸収2倍の水稲を開発

日本には稲作の技術も、稲作の実績があるのに休耕田や耕作放棄地となっている土地もあります。水稲の光合成能力を高め、大気中のCO2を効率よく取り込み、燃料やエタノール原料などのバイオマス用途での利用を目指す研究開発についての話題です。私には「ゲノム編集」「遺伝子組み換え」の違いやリスクを十分に理解できていないと思いますが、安全性を確保しながら進めてほしいと思います。既存の技術や設備を活用しながら、CO2の削減と農業の再生に貢献することができる研究開発だと思います。さらに発展して、100%植物由来のプラスティック(繊維、成形品、フィルム用途)原料が開発できれば、環境負荷の低減にとても有効だと思います。

2023年9月4日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

水稲の持つ光合成の力を引き上げ、温暖化ガスの削減に役立てようという研究が進んでいる。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は遺伝子を改変できる「ゲノム編集」で、従来の2倍のCO2を吸収できる水稲の開発に取り組む。国内の休耕田でバイオマス原料として栽培すれば、既存設備を生かしながらCO2の量を減らすことができる。

飼料用に使われる「北陸193」

“茨城県つくば市にある農研機構の試験場ではゲノム編集された水稲が栽培されている。隣に植えられたコシヒカリなどの既存品種に比べ、明らかに背が高い。倒れにくく数多くの大きな実を付けるため、多くの炭素をため込める品種になるためだ。遺伝子組み換え品種とは異なるものの、念のため農場は隔離されている。四方には動物よけの網が張られ、入る際には靴にもカバーが必要だ。農研機構は開発している品種を「DAC水稲」と呼ぶ。DACとはDirect Air Captureの略で、大気中のCO2を直接回収する技術を指し示す。”

空気に含まれるCO2を溶媒に吸着させるなど工学的な手法が先行しているが、農研機構は植物が本来持つ光合成の力を高めることでCO2の回収に挑んでいる。既存品種の中でCO2吸収能力が高い「北陸193」を改良し、コシヒカリの2倍程度の吸収能力にする。現在は飼料などに使われており、農研機構が狙うのも食卓向けではなく、燃料やエタノール原料などのバイオマス用途だ。

ゲノム編集された水稲の苗

“日本国内の水田の面積は240万ヘクタールほどとされるが、農業従事者の高齢化やコメを食べる人口の減少などから休耕田や耕作放棄地が増えている。そうした休耕田のうち、30万ヘクタールでDAC水稲を生産すれば、日本にある森林が吸収するCO2量の4分の1に相当する1000万トン分を回収できると試算する。農業は収穫や輸送などの工程で温暖化ガスを多く排出する。プロジェクトリーダーを務める農研機構の矢野昌裕氏は「農場や収穫機械など、既存技術をそのまま利用できるのが利点になる。使われなくなった水田をバイオマス原料の生産に切り替えれば、温暖化ガスの総排出を全体としてマイナスにし、国内の農業維持にもつながる」と話す。”

“収穫部位の大きさを示す「シンク容量」と光合成の強さや養分の吸収能力を示す「ソース能力」の双方の向上が必要になる。必要な性質ごとに遺伝子を改良した種を育て、掛け合わせて特定の遺伝子だけが残った品種に統合する。ゲノム編集で特定の遺伝子を壊すだけで向上する部分もあるものの、新たな能力が出現するまで何度も試さなければいけないこともある。植物ホルモンを抑制する遺伝子は特定されているので、それを壊せば枝分かれを促進するホルモンが増える。大気を取り込む気孔を大きくするためには遺伝子を壊すだけでは足りず、狙った変異が起こるまで何度も試す必要があった。”

“矢野氏は「これから複数の形質を掛け合わせる必要があり完成は遠いが、3年以内に1~2つの形質は統合した試作品をつくりたい」と話す。2030年までには農研機構内で完成品種を試験栽培できるまで進める。その後は2050年のカーボンニュートラル目標に向けて広く普及を狙う。”

「ゲノム編集」と「遺伝子組み換え」の違い

ゲノム(生物の細胞内にあるDNAおよびそこに書き込まれた遺伝情報全体)編集はゲノムを切断し、突然変異を起こさせることにより、その生物に元からある性質を変化させること。遺伝子組み換えとは、別の生物から取り出した遺伝子を導入することにより、細胞に新たな性質を付け加える技術。結果として得られる新しい性質が、細胞内部で変化したものなのか、細胞の外部から導入されたものなのかが、ゲノム編集と遺伝子組み換えの違い。

Follow me!