号外:アフリカ、「地熱大国」に動く

環太平洋火山帯に属する日本列島は地熱資源が豊かで、世界第3位の資源量を誇っています。しかし地熱資源の約8割が国立公園などの山間部にあるため、開発に膨大なコストが見込まれ、また周囲の自然環境保護の観点から、なかなか開発が進んでいません。一方、大陸を南北に走る「大地溝帯(グレート・リフト・バレー)」がある東アフリカでは、豊富な地熱資源を活用した地熱発電の開発が進んでいます。色々と課題はありますが、自国産の再生可能エネルギーで安定的に電力を得られれば、今後も人口が増加し、経済成長が見込まれる国々にとっては大きな力になるでしょう。また発電プラントなどの技術力で世界トップクラスの日本にとっては、各国を支援しながらビジネスを拡大する機会にもなるでしょう。

2023年11月1日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

JICAが支援するケニアの地熱発電開発

東アフリカのケニアが地熱発電の利用を急拡大する。建設中や計画中のプロジェクトが実現すれば、米国とインドネシアに次ぐ世界第3位の「地熱大国」に浮上する。異常気象によって水力発電からの転換を迫られるエチオピアやウガンダも地熱開発に動いている。気候変動対策には国際資金も集まりやすい。発電プラントなどの技術力で世界トップ級の日本にとっても好機となる。”

「ケニアは2030年までに電源の100%を再生可能エネルギーにする目標を掲げている。今後10年間は特に地熱発電を最優先する」。ケニアのルト大統領は6月に開催されたアフリカ・エネルギー・フォーラムで地熱シフトを急ぐ考えを表明した。ケニアは知られざる再生可能エネルギー先進国だ。総発電量に占める再生可能エネルギーの割合は80%を超え、そのほぼ半分を地熱でまかなう。石油や天然ガスなど化石燃料に恵まれず、電力供給は不安定だったが、地熱利用の拡大で電力にアクセスできる世帯割合は2013年の32%から75%に大幅に上昇した。”

“米調査団体グローバル・エナジー・モニター(GEM)は、ケニアの地熱発電の設備容量は3.4倍に急拡大すると予測する。現在の設備容量は779メガ(メガは100万)ワットと、アイスランドをやや上回る世界第7位だが、その2倍以上の計1878メガワットの設備がすでに建設・計画中だ。完成すれば地熱発電大国インドネシアで稼働中の容量を上回る規模となる。GEMプロジェクトマネージャーのカサンドラ・オマリア氏は「地熱資源に恵まれた東アフリカの中でもケニアの地熱開発はずばぬけており、総発電量に占める地熱の割合は他のどんな国よりも高い」と話す。そのうえで「世界的に見れば、劇的に増えている太陽光や風力に比べると地熱の利用はさほど伸びているとはいえないし、地質学的な制約もある。だが(気候条件に左右される)太陽光や風力とは違って、安定的に24時間発電できる『ベースロード電源』としての利点は大きい」と強調する。”

ケニアが「地熱大国」を目指すのは気候変動への備えからだ。ケニア発電公社(Ken Gen)のアシスタントマネージャーで地球物理学者のアンナ・ムワンギ氏は「気候変動が続けば、アフリカの国々は頻発する干ばつに悩まされるだろう。水力とは違って地熱は天候や気候変動の影響を受けず、信頼性が高い。多くのメインテナンスがなくても年間365日の発電が可能だ。人口が増え、経済が成長するケニアで必要な電力を安定的に供給できる」と話す。気候変動対策のための資金調達法の拡大も理由に挙げる。「地熱発電は(掘削などで多額の資金が必要になる)資本集約型であり、1980年代以降の地熱開発が極めて遅かったのは資金繰りに問題があったからだ」と指摘する。持続可能なクリーンエネルギーとしての国際的な資金協力を得るため、ケニア野生生物公社(KWS)とも緊密に連携して「野生生物と地熱発電設備との環境上の共生をはかっている」と語る。”

地熱発電は地下のマグマなどで熱せられた水蒸気や高温の水を使う。液化天然ガス(LNG)や石油、石炭の燃焼で蒸気を作り、タービンをまわす火力発電とは異なり、CO2の排出量が極めて少ない特徴がある。地熱発電の適地は比較的浅いところにマグマがあるプレート(巨大な岩盤)の境界上などに限られる。東アフリカには大陸を南北に走る「大地溝帯(グレート・リフト・バレー)」があり、日本列島を含めた環太平洋火山帯と同様に、豊かな地熱資源を活用できる。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると世界全体の再生可能エネルギーに占める地熱発電のシェアは現在わずか0.5%にすぎないが、途上国を中心に新たな再生可能エネルギーとしての期待が大きい。東アフリカではケニアに続いてエチオピアやジブチ、ウガンダ、タンザニアも地熱発電の開発に取り組んでいる。ケニアが地熱発電のための掘削や地表調査などで技術協力を進めており、将来的に東アフリカの大地溝帯の周辺が地熱発電の一大地域になる可能性がる。

東アフリカの大地溝帯には豊かな地熱資源が眠る(ケニア)

“とりわけエチオピアは地熱発電への急傾斜を進める。現在は電源の約90%を水力に頼っており、降水量の変化や干ばつの頻発で電力供給がさらに不安定になる恐れが消えないからだ。GEMの調査によると、エチオピアの地熱発電容量は現在はほぼゼロだが、建設中や計画中の発電容量は550メガワットに上り、将来は日本やイタリアを上回る。”

東アフリカの干ばつ

“アフリカは右肩上がりで人口増加が続き、2050年には人口が現在の1.7倍の約24億8500万人となる。今後の経済成長も考えれば、電力需要が逼迫するのは明らかだ。地熱発電への期待は高いが、問題はKen Genのムワンギ氏が指摘するように、資金や投資をどう確保するかにある。国際協力機構(JICA)社会基盤部の山本将史企画役は「地熱発電は安定的に蒸気が噴出するまでの試掘のリスクや発電設備など初期段階の投資コストがかさむため、これらをどうカバーするかが課題になる。公的融資があれば(途上国での)クリーンエネルギー転換の実現性が高まる」と語る。世界銀行や欧州連合(EU)などと同様に、日本はJICAを通じて東アフリカの地熱開発を支援してきた。ケニア・オルカリア地熱発電所への投資額は約1000億円に上り、ケニアの地熱発電においては設備容量の40%以上が日本の円借款による。地表調査や試掘、資源評価に関する技術移転も進めている。エチオピアやジブチでも開発計画の策定や試掘などで協力している。”

“地熱発電をめぐる国際パートナーシップが日本にとって重要なのは「海外へのインフラ輸出の拡大になるうえ、日本企業のビジネスチャンスにつながる」(山本氏)ためだ。たとえば、地熱発電プラントの設備容量では東芝、富士電機、三菱重工業(旧三菱日立パワーシステムズ)の3社で世界シェアのほぼ7割を握る。実は火山国・日本の地熱資源量は米国やインドネシアとほぼ並ぶ世界第3位の規模で、ケニアの3倍以上ある。地熱資源の約8割が国立公園などの山間部にあるために活用できていないが、地熱開発に関わる技術やノウハウで優位性がある。”

ロシアのウクライナ侵攻以降、化石燃料を輸入に頼る途上国の多くはエネルギー価格の高騰と自国通貨安に直面し、純国産の資源となり得る再生可能エネルギーへのこだわりを強める。気候変動対策を加速するため、途上国のクリーンエネルギー転換も国際的な課題となっており、11月末から開催される第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)では国際金融支援の強化が議論される見込みだ。気候変動対策と経済成長をいかに両立させるかは世界共通の課題だ。とりわけ、今後も右肩上がりの人口増加が予想されるアフリカにとって、地熱利用の潜在力はかなり大きい。”

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