号外:「蛇口から水」いつまで維持できるか?

日本では蛇口をひねれば(飲むことができる水)を得ることができます。日本は水資源に恵まれた国ですが、そのことと上下水道が完備されていることとは別の話です。近い将来に、既存の水道システムを維持することが困難になるという話題です。私たちの日々の生活にとって、とても不便なことになりそうなのですが、状況はかなり厳しくなっています。

2023年11月19日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

蛇口をひねれば、いつでも水が出る。そんな日常が続かなくなるかもしれない。今のまま2050年になると、約6割の水道管が法定耐用年数を超す。使えなくなる恐れがある一方、維持管理する職員は減る。人口減と老朽化のはざまで、生活に欠かせないインフラを見つめ直すときが来る。”

給水車で水を運ぶ(宮崎市内)

“宮崎市の南西部、山あいで自然広がる田野地域の集落。ここに住む長友健治さん(75)夫妻が自宅で日々使う水は、給水車が運んでくる。2005年の台風14号で集落の水道設備は土砂災害に見舞われた。施設の老朽化や過疎化も踏まえ、市は浄水場と配水池を管路で結ばず、車両による「運搬送水」に切り替えた。水道管や浄水施設の整備であれば億円単位の費用がかかるが、運搬送水では車両費など1500万円程度で済んだという。最寄りの配水池に週3~4日、市上下水道局の給水車が合計約25トンの水を運搬。配水池からは管路で水を住宅に送る。長友さんは「野菜を洗ったり、風呂に入ったりするのに市の送水は不可欠。なくなれば転居も考えざるを得ない」と話す。運搬給水による給水人口は10人に満たず、料金収入は限られる。年1000万円近くの人件費など維持管理費は市の一般会計から補っている。同局営業所工務課の日高博之課長補佐は「住民が減っても水は大切なライフラインだが、継続は容易ではない」と話す。災害など非常時ではなくとも、給水車が地域を走る。こうした光景が今後、広がるかもしれない。

法定耐用年数超えの水道管

“日本水道協会によると、総延長約74万キロメートルに及ぶ全国の水道管のうち、地方公営企業法が定める40年の法定耐用年数を超えた割合は2020年度で20.6%。10年前の約2.6倍と急速に老朽化が進む。この間の平均上昇率を基に単純計算すると、2050年度には59%まで高まる。法定耐用年数は更新時期の目安になる。耐久性は材質や土壌にも左右され、実際に使用できる年数は異なる。それでも期限を超えて老朽化が進めば破損や破裂、漏水を招く可能性は高まる。厚生労働省は今後30年で水道施設の更新に年1.8兆円かかると試算。一方で7月には運搬送水の需要を見据え、水質管理など注意点を示したガイドラインをまとめている。水道管の維持管理を担う人手も心もとない。水道協会によると、2020年度の水道事業の職員数は約4万7300人と、ピークだった1980年度に比べ36%減った。老朽化で管の不具合が増えても、人手不足でカバーしきれず、断水が長期化する場面が生じる可能性がある。

水道料金の全国格差

少子高齢化で給水人口が減ってコストが膨らむ中で、料金の問題ものしかかる。同協会のまとめでは、2023年4月時点の家事用20立方メートルの1ヶ月あたりの料金で最も高いのは北海道夕張市で6966円。最も安い兵庫県赤穂市の869円の約8倍の水準となっている。「2040年代には、全国平均で水道料金を2018年度に比べ43%増やす必要がある」。EY新日本監査法人は赤字を回避するために求められる値上げ率をこう試算した。北海道や東北、北陸の3割以上の事業者で50%以上の値上げが必要とみる。格差は2040年代には25倍に広がると予測する。

“こうした状況にどう向き合うか。「自給自足」を模索する動きがある。東京大学発のスタートアップ、WOTA(東京・中央)は雨水などを住宅で循環、消毒するなどして再利用し、必要な飲用水や生活用水をほぼ100%賄うシステムを開発した。東京都利島村や愛媛県西予市などの民家で実証実験中だ。2024年の量産化を目指している。事業を担当する越智浩樹執行役員は「人口密度が低い地方で、水の自給自足のモデルをつくる」と強調する。記者はこのシステムによる水と、都内の水道水を飲み比べてみたが、違いは感じなかった。販売価格は未定だが、水道要らずの家庭が増えるかもしれない。”

人が住んでいる限り、その地には水が必要となる。インフラはますます老いる。効率的な維持管理に向け、生活の場や基盤を集約していく議論もさらに必要だろう。国土交通省の調査では、水道水をそのまま飲める国は日本を含め11ヶ国にとどまる。「日本人は水と安全はタダと思っている」。約半世紀前、作家イザヤ・ベンダサンが評した姿は過去のものになりつつある。”

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