号外:米国、原発燃料の脱ロシアに限界
地球温暖化対策を進めるなかで、再生可能エネルギーとともに、CO2を排出しない原子力発電が再評価されています。日本では、東日本大震災における福島第一原子力発電所での事故以降、多くの原発が安全確認のために停止し、再稼働もなかなか進んでいません。しかし昨年、政府は再稼働を進めることと原発の更新、新設を検討する方針を打ち出しました。原子力発電に使用されるのはウラン燃料ですが、ロシアが大きなシェアを持っていて、米国では経済安全保障上のリスクになっているという話題です。
2024年1月9日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“米政府がエネルギー分野でロシアへの依存から抜け出せない実態が浮かび上がってきた。原子力発電に用いるウラン燃料の24%がロシア産で、2028年も15%を輸入すると試算していることがわかった。対立するロシアに頼らざるを得ず、経済安全保障上のリスクになっている。原発の稼働には鉱山から採取する天然ウランを燃料に使う必要がある。燃料にするまで3~5年の濃縮工程が必要で、ロシア企業が世界トップの4割のシェアを持つ。米国は対ロ制裁でロシア産の化石燃料の輸入を禁止したが、ウランは対象外にしている。”
“米エネルギー情報局(EIA)によると、2022年に米国が調達したウラン燃料の24%がロシアからの輸入だった。2021年より4ポイント減ったものの、輸入量では最大で自国産の27%に次ぐ。2022年のロシアからの輸入総額が前の年からほぼ半減したのに比べ、脱ロシア依存の遅れが鮮明だ。米エネルギー省の報道担当者は日本経済新聞に「ウクライナ侵攻を踏まえ、信頼できない企業への依存を最小化したり、排除したりするよう望んでいる」と説明。ロシアへの依存率を「今後20年間は平均17%、2028年から15%に制限する」と表明し、全面的な調達先の切り替えは困難だと認めた。”
“米政府は米国内の濃縮ウランの供給能力を高めるため、2023年度予算案に22億ドル(約3100億円)を要求した。原発関連事業を担う米セントラス・エナジーなどの支援に充てる方針を示すものの、供給体制が整うには数年単位の時間がかかる見通しだ。エネルギー省は「長期的にはロシアからの濃縮ウラン輸入を禁止する」と明言。「日本やカナダ、英国、フランスなどパートナー国とも協力する」と強調した。各国の電力会社が抱えるウラン製品の在庫からの調達などを想定する。日本はもともと燃料のロシア依存度が低く、原発の再稼働が遅れているため在庫も潤沢だ。米国は冷戦終結前後から旧ソ連諸国の安価な濃縮ウランに頼ってきた。過去の米ロ核軍縮交渉でロシアの核兵器から取り除いたウランを米国の燃料として利用することに合意した経緯がある。”
米ノースカロライナ州立大のロブ・ヘイズ准教授は「米国は回収したロシアの核兵器の燃料をエネルギー源にしていた」と指摘。「その代償としてウラン濃縮を請け負っていた米企業が市場を失った」と分析する。米企業が新規参入するには5年ほどかかるとの見方を示し、法改正による許認可手続きの短縮には安全性の確保が難題になると提起する。“
“上院外交委員会の野党・共和党トップ、ジェームス・リッシュ議員は2023年11月に議会で「核燃料を購入するためにロシアに送金していることには驚かされる」と警告。「ロシアに依存せざるを得ないのは世界中の供給網が抱える課題であり、注意を払ってこなかった」と語った。EIAによると、原発は2022年の米国の発電電力量の18%を占める。風力や太陽光などの再生可能エネルギーの21%を合わせても、石油や天然ガスなど化石燃料の60%を下回る。バイデン政権は気候変動対策を重視するものの、原発活用を増やそうとすればロシア依存を続けざるを得ないジレンマを抱える。”