号外:石炭火力に潜む「座礁資産」リスク

2019年11月7日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より

日本の石炭火力発電の投資リスクに関する報告書が最近、相次いで公表された。英国の金融に関するシンクタンク「カーボントラッカー」等は、石炭火力につぎ込んだ710億ドル(約7兆7千億円)が、回収できない「座礁資産」になる恐れがあると発表した。”

“稼働中と計画中の石炭火力発電所ごとに経済性を分析した結果、発電コストは計画中の発電所では2025年までに、稼働中の発電所でも2027年までに、風力発電、太陽光発電より高くなることがわかったという。石炭を燃やす意味がなくなるということだ。温暖化対策の国際ルール「パリ協定」は、産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑えることをうたっている。日本などの先進国は2030年までに石炭火力を全廃しないと目標達成は難しい。そうなれば、計画中の石炭火力の投資回収など無理な話だ。フランスは2021年、英国とイタリアが25年、ドイツが38年に「石炭火力発電ゼロ」を目標にしている。”

石炭火力発電所建設現場

“自然エネルギー財団によると、東日本大震災以降、約2100万キロワットの石炭火力の新増設計画があったが、採算割れの見通しなどから703キロワットが中止・変更された。電力需要が減れば設備利用率の低下が予想され、さらに座礁資産リスクは高まる。”

石炭火力発電をやめて代替エネルギー発電を促進する強い意思があるかないかで、座礁資産のリスクは変動します。リスクが顕在化すれば(投資した石炭火力発電が採算割れになれば)、そのツケは家庭の電気料金として跳ね返ることになります。今後の電力需要と、「パリ協定」に代表される環境配慮(温室効果ガスの削減)をしっかり検討して、施策に反映させなければなりません。

言うまでもなく、電力は非常に大切なライフラインです。最近ではオール電化の家庭もあります。普通の家庭でも、キッチングリルや給湯器、一部の暖房機を除けば、ほとんどの道具は電気製品です。停電になればそれらが使えなくなりますし、携帯電話の中継器もダウンしてしまいます。

この表は2015年度の電源別発電電力の構成比を示しています。全体の発電量は8,850億kWhで、そのうち約85%は火力発電です。全体の約32%は石炭火力発電です。この表から、現在は電源別発電量で、火力以外の割合が極めて小さいことがわかります。

電源別発電電力量構成比グラフ

総発電量は2010年の10,064億kWhから漸減傾向にあり、2015年には8,850億kWhになっています。徐々に節電、省エネルギーが進展していることがうかがえます。2011年の東日本大震災の前後で、電源別の構成に大きな変化がありました。2010年度に約29%あった原子力発電は、2015年度は約1%に低下しています。同期間で電力需要を賄うために、火力発電が約62%から約85%まで拡大し、コストの安い石炭火力は約25%から約32%へ伸長しています。水力発電はほぼ一定割合を維持し、地熱他新エネルギー発電は少しずつ増えていますが、まだまだ全体からみれば小さな割合です。

必要な電力は確保しなければなりませんが、先ずは今後も節電、省エネルギーに取り組むことは絶対条件です。日本で原子力発電を再拡大することは難しいと感じています。既存設備は老朽化しており、安全性を確認しての再稼働は遅々として進んでいません。原子力発電所の新設は、福島第1原子力発電所の事故を経験したあとでは、周辺住民の理解を得ることは難しいでしょう。火力発電、特に現時点でコストの安い石炭火力に頼ることは、CO2の排出量を増やし、環境配慮を進める世界の潮流に逆行します。また「座礁資産のリスク」が話題となっているのは、近い将来の技術革新によって石炭火力発電がコストの優位性を失うということです。やはりグラフでは「地熱および新エネルギー」で示されている「再生可能エネルギーによる電力確保」へ大きく方向転換することが、まさに今、必要です。

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