号外:気候変動:地球が「臨界点」を超える危険性

地球は緊急事態にあると、気候学者らが警鐘を鳴らしています。複数の地球システムが連鎖的に「臨界点」を超えることで、地球全体が後戻りできなくなる可能性があると言われています。地球システムが崩壊すれば、世界は「ホットハウス・アース(温室地球)」状態になりかねません。つまり、気温は5℃上昇し、海面は6~9m上昇し、サンゴ礁とアマゾンの熱帯雨林は完全に失われ、地球上のほとんどの場所が居住不可能になる世界です。まさに「文明の存亡の危機」です。

臨界点はずっと先のことだろうと思われてきましたが、すでに差し掛かりつつあるという指摘があります。例えば、西南極の氷床は徐々に崩壊が進んでいますが、最新のデータは、東南極の氷床の一部も同様に崩壊が起きている可能性を示しています。両方の氷床が融解すれば、今後数百年で海面は7mも上昇します。

臨界点の概念は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって20年前に導入されました。ひとたび臨界点を超えると、一気に不可逆的な変化が起きます。かつては、気候が臨界点を超えるのは5℃以上の温暖化が起きた時だと考えられていました。しかしIPCCは2018年の報告書で、それが1~2℃の温暖化でも起こりうると警告しています。各国が2015年の「パリ協定」で約束した温室効果ガス排出量の削減は、目標である2℃以下の地球平均気温の上昇を達成するには不十分で、現在の排出量削減目標を達成したとしても、このままでは3℃以上も平均気温が上昇すると予想されています。

太陽からの熱エネルギーを受けた大気や海洋、氷床、森林などの生態系、土壌は、地球の熱循環に影響を及ぼします。それらは相互作用しているため、いずれかの要素が大きく変化すれば、ほかの要素にも影響が及びます。科学者たちは今、別々の臨界点がゆっくりとドミノ倒しを始めていると警告しています。例えば、北極海では過去40年間、夏になるたびに海氷が失われていますが、そのせいで熱を吸収しやすい水面の面積が増え、熱を反射する氷が40%も減ってしまいました。その結果、北極地方の温暖化が進み、永久凍土が融解することで、大気中にCO2やメタンが放出され、それがさらなる地球温暖化を引き起こしています。

世界の気温は、人間による炭素の排出だけで上昇するわけではありません。森林、北極と南極、海洋といった自然システムも大きな役割を果たしています。すでにいくつかの危機的状況が顕在化しており、ここから連鎖的に変化が起きて地球全体が不可逆的に変化し、人類の文明に甚大な被害を及ぼすリスクがあります。ただちに対策を打たなければ、私たちの子供たちは危険なほどに不安定化した地球を受け継ぐことになります。

最近の国連などの報告書によると、米国、中国、ロシア、サウジアラビア、インド、カナダ、オーストラリアなどの国々は、依然として化石燃料の生産を増やそうとしています。こうした国々は「パリ協定」の下で地球の温暖化を2℃以下に抑え、さらに1.5℃未満に留めるように努力することに合意していますが(米国は協定からの離脱を表明)、自国の経済成長の方が大切なようです。文明が存亡の危機に直面している今、いくら経済的なコストと利益を天秤にかけたところで意味はありません。臨界点を超えることは、資産や経済の安定性、それに今の私たちの暮らしにとって非常に大きなリスクです。温暖化の影響をまともに受けるより、さらなる温暖化を防ぐ方がはるかに安上がりだと言われています。

一方で、世界の脱炭素化は2010年以降加速しています。依然、炭素排出量そのものは増加していますが、脱炭素化により増加量は抑えられており、もうすぐ減少に転じそうだという報告もあります。「すべての経済分野で積極的に行動すれば」、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの活用、太陽光・風力発電などにより、パリ協定の目標を達成することも可能になったという意見もあります。

前向きな臨界点もあります。例えば、再生可能エネルギーの市場価格が化石燃料を下回れば、大きな変化が一気に訪れる可能性があります。この1年間で世界の社会的な意識が大きく変化しました。数百万人の学生がストライキを行い、多くの人々が緊急の気候変動対策を求めています。金融機関やビジネス界や都市も、高い気候目標を掲げるようになってきました。

地球が臨界点を超えるまでにどれだけの時間が残されているのか。私たちの対策は、地球が臨界点を超えて不可逆的な変化に突入するまでに間に合うのか。正確なところはわかりませんが、危機が目前に迫っているという人々の共通の認識は広がってきています。地球規模の変化に対応するためには、国際連携は必須です。先進国、途上国といった枠組みを超えて、人類がどれだけ協力して危機回避できるのかが問われています。

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