号外:日本の洋上風力発電、いよいよ本格導入へ
2019年12月17日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より
“再生エネルギーの導入が遅れてきた日本で、洋上風力発電の大型プロジェクトが相次ぐ。東北電力は約3000億円で国内最大級の設備を青森県に建設する。北欧石油最大手のエクイノールも約3000億円を投じて日本の洋上風力に参入。洋上風力による発電容量は2030年度にも原発9基分に達する見通しだ。”
東北電力は、青森県つがる市の沖合に出力48万キロワットの大型洋上風力発電の設置を進めます。総事業費は3000億円で、運転を終了した女川原発1号機にほぼ相当する発電規模で、2029年ごろの稼働を目指しています。東北電力は東北や新潟を中心に、風力発電を軸に再生エネの発電能力を新たに200万キロワット増やす方針です。
ノルウェーのエクイノールは2030年までに出力30万~50万キロワットの洋上風力発電を設置します。投資総額は2000億~3000億円とみられ、北海道や青森などの風況が良い立地を調査しています。洋上風力発電最大手のオーステッド(デンマーク)も東京電力ホールディングスと共同で、千葉県銚子沖で2024年度にも出力37万キロワットの風力発電を計画しています。日本風力発電協会によると、国内の洋上風力発電容量は、2030年度にも原子力発電所9基分以上に相当する960万キロワットに拡大する見通しだとしています。
“世界ではエネルギー投資の主役が再生エネになりつつある。国際エネルギー機関(IEA)によると、2018年の世界のエネルギー関連投資(1兆5880億ドル、約174兆円)のうち、再生エネ分野は3040億ドルと19%を占め、油田・ガス田に次ぐ規模になった。世界的に企業経営でESG(環境・社会・企業統治)が重視されるようになり、石炭など化石燃料から投融資を引き上げ、再生エネ開発などを支援する投資家が相次ぐようになった。投資の高まりもあり、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、2018年の世界の再生エネの発電容量は前年比8%増の約23億5600万キロワットで、発電量は電力全体の4分の1にまで成長した。”
再生可能エネルギーによる発電の中でも注目されているのが、欧州で先行してきた洋上風力発電です。投資額は2018年の190億ドルから2019~2030年は年平均で610億ドルに拡大するとみられています。また、調査会社ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNFE)によると、洋上風力発電の2018年の発電量あたりのコストが、発電機の大型化により1年で32%低減できたことも普及を促進しています。
日本では、電力全体に占める再生エネ(水力発電を含む)の割合を、現在の約16%から2030年に22~24%に高める目標を掲げています。ただ12月にスペインのマドリードで開催された第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)では、石炭火力発電の廃止など脱炭素に向けた具体策は明示されず、温室効果ガスの排出量削減目標の上積みも見送られました。欧州などからは日本の対応の遅れを指摘されています。
“日本では発電所から電気を送る送電線の空き容量不足が深刻になっている。日本経済新聞社の調べでは、洋上風力の有望立地が多い北海道や東北など東日本では、送電線の5~8割で空き容量が足りないことがわかった。送電線の権利は大型の火力や原子力発電所で権利が埋まっており、未稼働でも今後の再稼働を目指す原発の権利は維持している。洋上風力の計画が本格化するなか、空き容量不足を解決しなければ再生エネ活用が頓挫しかねない。”
先行して洋上風力発電の導入が進む欧州では、海底送電線の新設や増強工事が相次いでいます。また各国が電力を融通しやすい環境を整えているため、今後も洋上風力発電を受け入れる余地があります。一方、日本では空き容量不足のため送電設備の増強に多額の資金が必要となることが懸念されており、そのことが再エネ発電普及の障害になる可能性があると言われています。
このグラフは、日本の総発電量(=必要電力量)とその電源別割合の推移を示しています。総発電量は2010年をピークとして漸減傾向にあります。これは技術革新を含めた省エネルギー(省電力)努力の結果だと思います。既存の送電設備は、今後電力需要が急拡大しない限り、必要な電力を送電する能力があります。この状態で、再生エネ発電が増えてゆけば、その他電源(火力、特に石炭火力)の送電を減らすことで、全体としては対応可能と考えられます。今後も省エネルギー(省電力)の努力は継続しなければなりません。また電力の安定供給のために、ある程度送電能力の余裕を持つことは必要だと思いますが、送電能力の「空き容量不足」が理由で、再生エネ発電の普及が妨げられることがあってはならないと思います。