*これからのファッション産業:増加する需要とバイオマス由来生分解性合成繊維(私見、概論)②

私が子供の時には、世界の総人口は36億人と教えられた記憶があります。それが現在では77億人、つまり50年前の倍以上になっています。さらに2050年には97億人2100年には110億人になると予測されています。人口が増えれば、その人々のための服が必要になります。そのためにも、先ず、現在の人口規模での無駄を極力省くことを考えなければなりません。

人口が増えれば服が必要になりますが、同じように水と食料が必要になります。食料を増産するためには、今以上に天然繊維(コットンやウール)を増産することは困難でしょう。したがって衣料品への需要増加分については、主として合成繊維(プラスティック)で対応してゆくことになります。水も重要です。現在の繊維産業は、綿花栽培や生地の染色に大量の水を消費しています(世界の排水量の20%)。気候変動による干ばつ被害の拡大で、世界の水不足も深刻化しています。海水の淡水化技術開発も進んでいますが、繊維・ファッション産業としての水消費を抑制するためのプロセス革新は必須です。

現在の合成繊維(プラスティック)の原料はほとんどが石油です。石油は有限な資源です。昨今のシェールガスやシェールオイルの採掘、メタンハイドレートの活用研究まで考えると、化石原料の枯渇可能性がどの程度なのか私では判断できません。しかし、ともかく大気から隔絶された状態にある炭素を地中や海中から取り出し、それを消費(燃焼)することは大気中の温室効果ガスを増加させます。温暖化を抑制して、地球環境を守らなければなりません。「パリ協定」の温暖化抑制目標(産業革命前からの地球平均気温の上昇を2℃未満、できれば1.5℃未満に抑制する)を達成することはとても重要です。地球が気候変動によってこれ以上不安定になれば、人間の生存自体が脅かされることになります。

人口増加によって必要になる服に使用する合成繊維(プラスティック)は、石油由来ではなくバイオマス由来でなくてはなりません。非可食植物(or 植物の非可食部分)を原料とし、食糧増産と競合しない形で合成繊維を増産しなければなりません。既に基礎技術は開発されていますし、一部では量産化も始まっています。この方向を加速しなければなりません。生物工学の技術を利用して、培養した微生物からプラスティックを抽出する(そのプラスティックを繊維化する)研究もされています。実用化までにはまだまだ時間が掛かりそうですが、将来に向けたひとつの可能性であることは間違いありません。

これらの場合も前述のリデュース、リユース、リサイクルの重要性は変わりません。特に、石油由来であろうとバイオマス由来であろうと、合成繊維をリサイクルするシステム(易リサイクル製品設計、回収、分別)と高純度の再資源化技術の開発が必要です。バイオマス由来であれば、焼却してもカーボンニュートラルになりますが、温室効果ガスの排出自体を極力抑制しなければなりませんから、バイオマス由来であってもリサイクルすることが優先課題です。

それでもリサイクルできない廃衣料が発生します。それは分別や再資源化の技術的問題による場合もあるでしょうし、地域的な問題(途上国などでのリサイクルシステムや技術の不備)による場合もあるでしょう。リサイクルできない廃衣料を埋め立てたり(土壌汚染)、焼却(CO2排出)することは、決して環境に配慮した廃棄物処理とは言えません。このような事態を避けるためには、生分解性を持ったバイオマス由来の合成繊維(プラスティック)の開発、実用化が期待されます。生分解性を持っていても、衣料品に使用できる耐久性を持っている合成繊維(プラスティック)は、そう簡単に生分解してくれませんから、やはり回収して生分解処理することが必要です。生分解処理は自然に近い廃棄物処理で、特別なエネルギーや焼却施設のような大規模な設備は不要です。また焼却に比較してCO2の排出を抑制することができます。生分解性繊維(ポリエステル)の可能性についてはこのHPで取り上げていますので、そちらも参照してください。

生分解と繊維:焼却する廃衣料を削減するには

生分解するポリエステル繊維ができたら

衣料品の生分解処理:微生物の力と自然な廃棄物処理

衣料品生分解処理の課題:堆肥と堆肥の安全性、リサイクルか?>の項を参照

将来的に天然繊維の増産は困難だと思われます。現在も繊維素材として幅広く使われている合成繊維については、石油由来からバイオマス由来の生分解性繊維に切り替え、また繊維産業全体として水や農薬、有害性のある化学薬品等の使用を抑制するプロセス革新を実行し、増加してゆく需要に対応しなければなりません。

衣料品は私たちの生活に密着した必需品です。身近な製品であればこそ、ファッション産業はサステイナブルに継続されなければなりません。「手間をかけた良い製品を、出来るだけ長く大切に使うこと」、「無駄な製品を生産しないこと」はすべての製品に通じるサステイナビリティの基本です。そのうえで、循環型の生産・消費活動を実現するために、廃衣料品のリサイクルを拡大してゆかねばなりません。どうしてもリサイクルできないものについては、微生物の力を借りて、できるだけ環境負荷を抑えて、自然に帰してゆくことを考えてゆきたいと思います。

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