号外:脱プラスティックへ、「詰め替え」ビジネスの可能性
このHPでも取り上げてきた、テラサイクルのLOOPに関連する情報です。
<LOOP:テラサイクルの包装容器再利用事業、東京での試験運用>の項を参照
2020年3月3日付けNational Geographic電子版に掲載された記事より、
“近年、プラスティック問題に対する革新的な解決策がいくつも提案されているが、トム・ザキー氏(LOOPを運営するテラサイクルのCEO)の案は最も大胆なものの1つかもしれない。彼が提案するのは、昔ながらの方法だ。つまり、返却と詰め替えができる容器を使うことである。”
“このアイディアは、1920年代初期にコカコーラ社によって初めて導入された。同社は当時、コーラを高価なガラス瓶に入れて販売していたため、瓶を返却してもらう必要があったのだ。そこで、値段の約40%に相当する2セントのデポジット(預り金)をとることで、瓶の約98%を回収し、40~50回と再利用していた。デポジット制は、これまでに発明された容器の回収法の中で、最も効果的な方法の1つである。”
“ザキー氏は2019年5月、食料品から洗濯用洗剤まで多岐にわたる商品を、頑丈で再利用可能な容器に入れて販売するネット通販サービス「LOOP」を立ち上げた。この事業では、それぞれ大きさも素材も異なる容器に入った300品目以上の商品を扱っている。飲料瓶のように単一の容器のデポジット制とは大きく異なる。LOOPの代表的な商品は、つるりとしたステンレス製の断熱容器に入ったハーゲンダッツのアイスクリームだ。”
“ザキー氏は17年前に米プリンストン大学を中退し、ごみビジネスのイノベーターになるために、「テラサイクル」という小さな廃棄物リサイクル会社を設立した。彼は、おむつやタバコの吸い殻など、リサイクル不可能とされていた多くのもののリサイクル方法を考案した。だがそうするうちに、昔のような容器の循環を復活させ、使い捨て容器を一掃することに興味を持つようになった。容器は借りるだけで、代金は中身の分だけ支払うビジネスモデルだ。”
“プラスティックごみの削減に向けた選択肢として、詰め替え可能な容器が再び注目されている。飲料業界では、返却できるボトルの利用が広がっている。より重要なことは、LOOPのように、詰め替えにはあまり適さないとされる商品において、新興企業や一部の世界的な大手企業が詰め替えに取り組もうとしていることだ。ザキー氏は2019年1月にスイスで開かれた世界経済フォーラム(ダボス会議)で自分のアイディアを売り込み、ネスレ、ユニリーバ、P&G、コカコーラ、ペプシコなどと契約を結んだ。”
“スターバックスとマクドナルドは、再利用可能なカップでコーヒーを販売する実験的なプログラムをカリフォルニア州で進めている。持ち帰り用の紙コップは通常、漏れ防止のために内側にプラスティックの薄膜が貼られており、リサイクルが難しい。プログラムがうまくいけば、そうした数十億個の紙コップを世界中からなくすことができるだろう。”
“プラスティックをめぐる状況は短期間で大きく変化した。ほんの10年前は、科学者もプラスティックメーカーも小売店も、使い捨てプラスティックがどれほど問題かについて理解していなかった。しかし2015年に、毎年平均850万トンのプラスティックごみが海洋に流れ込んでいるとする報告をきっかけに、反プラスティックキャンペーン、ビニール袋その他のプラスティック製品の使用禁止、再生プラスティックを使った包装に切り替える小売店の取り組み、産業界によるリサイクル設備への投資、既存のプラスティックごみの清掃などが次々に始まった。”
“LOOPは2019年5月に米ニューヨークとパリでサービスを開始した。今年は英国、カナダのトロント、東京で、来年はドイツとオーストラリアでのサービス開始を予定している。できるだけ従来の買い物体験に似たものにするために、実店舗でもLOOPの詰め替え商品の販売と容器の回収を行えるよう、薬局チェーンのウォルグリーンズやスパーマーケットチェーンのクローガーと提携した。”
“ザキー氏は、消費者こそが、プラスティックをめぐる現状を変えるカギを握っているのだと言う。消費者には、財布によって企業を変える力がある。「私たちは、買い物をするときに何を気にするでしょうか?便利さと、値ごろ感と、性能です。どれも持続可能性とは無関係です」、「私たちは日々、無意識のうちに買い物によって投票しています。自分たちが何を求めているのかを企業に教えているのです。私たちはそのことを真剣に受け止めなければなりません」、「私たちは余分な買い物を減らし、資源の循環利用につながる商品を買うべきです」”
2020年秋、LOOPの試験運用が東京で始まります。参加企業(メーカー)は12社です。
参加メーカー12社:味の素、I-ne、エステー、大塚製薬、キッコーマン、キャノン、キリンビール、サントリー、資生堂、P&Gジャパン、ユニチャーム、ロッテ
更に小売企業としてイオンが参加します。
昔ながらの容器再利用の好例は今でもドイツに見ることができます。ドイツでは、ビールもミネラルウォーターもワインも容器は瓶が中心です。ビールとミネラルウォーターの瓶は規格が統一されていて、洗浄してそのままリユースされています。ワインの瓶は色ごとに分別してリサイクルされています。日本では、ビールは缶が中心で、ミネラルウォーターはペットボトルが中心ですね。アルミ缶やスチール缶、ペットボトルはリサイクルされていますが、規格を統一した瓶を洗浄してリユースする方が、環境負荷は低いように思います。もちろん持ち運ぶときに重かったり、瓶が割れたりということはあるのですが、多少の利便性をがまんしても環境に配慮する姿勢(資源の循環再利用)は必要だと思います。
<ドイツにて:サステイナブルなライフスタイル>の項を参照
日用品の包装容器については、素材によっては(例えばペットボトルや食品トレー)リサイクルされる場合もありますが、基本的にはワン・ウェイ(一度の使い切り、使い捨て)で価格に含まれています。一度しか使わないし、価格に含まれるので、できるだけ低コストなものが使われる傾向です。この包装容器を、LOOPのように回収してリユースするように視点を変えれば、包装容器は使用者(消費者)に帰属するのではなく、メーカーに帰属することになり、繰り返し使うことを前提に素材やデザインを改良し、使い勝手を良くするための機能付加なども可能になります。資源の有効活用と環境配慮という観点で、非常に有意義でサステイナブルな取り組みになると思います。