号外:増える気候変動訴訟、ペルー農民が独電力を訴える

2020年4月6日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“気候変動への取り組みが不十分であるとして政府や企業の責任を問う「気候変動訴訟」が世界で増加している。ペルーの農民が氷河融解の危機を主張し、国境をこえドイツの大手電力会社を相手に起こしたケースもある。日本でも石炭火力発電所の建設に対して訴えが起こされている。こうした訴訟は今後も増え、企業にとっては経営上のリスクとなりそうだ。”

独RWEの石炭火力発電所

“ペルーの山岳地帯にあるパルカコチャ湖の下流に住む一人の農民が2015年、ドイツの電力会社RWEに対する民事訴訟をドイツの裁判所に提起した。地球温暖化で氷河湖が決壊する恐れがあり、被害を防ぐ費用などを電力会社に求めたのだ。地方裁判所の一審判決(2016年12月)では因果関係が認められなかった。ところが控訴審の審理(2017年11月)で裁判所が「原告の請求が不適当とは認められない」との決定を下し、氷河湖の決壊可能性などに関し科学的な鑑定立証を求めたことで注目を集めた。”

英国の控訴院は今年2月27日、ロンドンのヒースロー空港の拡張計画(第3滑走路建設)を違法とする判決を下した。計画を進めてきた英国政府がパリ協定に基づく気候変動対策を拡張計画のなかで考慮するのを怠ったことを理由としている。英政府は最高裁に上告しない方針で、計画撤回か見直しを迫られる。判決はパリ協定に法的拘束力を認めた画期的な判断と評価されている。”

2019年12月には、オランダ最高裁が「政府は気候変動がもたらす危険から国民を守る義務がある」とする判決を下した。オランダの非政府組織(NGO)アージェンダと市民が2013年にオランダ政府の気候変動対策が不十分だとして温暖化ガス排出削減目標の引き上げを求めた訴訟で、一審、二審で住民らの請求が認められ、最高裁も二審の判断を支持した。この判決は、気候変動による被害は現実的で切迫した人権侵害であるとした点で、今後の気候変動訴訟をめぐる情勢に変化をもたらす可能性がある。”

世界の気候変動訴訟

1990年から2019年5月までに気候変動対策をめぐり政府や企業を相手取った訴訟が28か国で1328件も起こされている。ほとんどは政府を相手取ったものだが、企業を訴えるものも増えている。”

日本国内でも、神戸製鋼が進めている石炭火力計画(神戸市、2基で出力130万キロワット)に対し住民が建設・稼働中止を求めて民事で提訴している。この計画にお墨付きを与えた政府に対しても行政訴訟を起こした。また神奈川県横須賀市では、東京電力と中部電力が共同で設立した発電会社JERAの石炭火力計画(2基で130万キロワット)に関し、住民が環境影響評価書の確定通知の取り消しを求める行政訴訟を提起している。政府の確定通知が発電所計画にお墨付きを与えたことになるとしている。”

“日本に限らず、気候変動による被害を理由に政府や企業を訴えるのは難しい点がある。気候変動対策は行政の裁量の問題であり、司法の判断になじまないという見方や、原告が訴えを起こすに足るような被害を受けるのか因果関係などを問う主張があるからだ。”

気候変動による被害が発生してからでは遅いので、被害の発生を回避するひとつの方法として、政府や企業を相手取った訴訟が提起されています。しかし記事にもあるように、行政の裁量と司法判断の関係や、(将来の)気候変動被害と政府や企業の選択や行動との因果関係の立証など、色々と難しいところ(司法判断になじまないところ)があるようです。そのような状況ではありますが、世界ではオランダ最高裁や英国控訴院の判断のような例も見られます。これらは、気候変動が現実の脅威であることが広く認知され、それに対応してゆくことが必要だという共通理解が広まってきた結果だと思います。世界の科学者が警鐘を鳴らす中、もし気候変動による大きな被害が発生した時に、「これは天災だから不可抗力だ」という言い逃れは受け入れられないと思います。人類は、そのような災厄が発生する前に対策を施す知恵があるはずです。そうすることが、現在を生きている私たちを危機から救うと同時に、将来の世代の安全を守ることになるのですから。

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