アパレル業界の「半年サイクル」が通用しなくなった理由②

前回は、現在のファッション業界の苦境の背景に、「消費の成熟化」「サステイナビリティ」という大きな潮流があることが指摘されていました。今回は、その現状を踏まえて、これからのファッション業界が向かうべき方向について分析されています。

“ファッションデザイナーの皆川明さんが率いるブランド「ミナ ペルホネン」は、ワンシーズンで売り切るのではなく、シーズンが終わった服をアーカイブとして販売している。ブランドを立ち上げた当時(1995年)から、半年をワンサイクルとしたファッション業界のシステムに疑問を抱いてきた。精魂込めて作ったものは半年というサイクルを超えた価値を備えているし、時代の気分を表現していると捉えてきたからだ。”

“また、ジョルジオ・アルマーニはコロナ禍を受け、「今回の危機は、業界の現状をリセットしてスローダウンする貴重な機会」というメッセージを公開した。「衣料を実際とはかけはなれたスケジュールで販売する等のファッション業界のばかげた慣例について、今回の危機を乗り越えるには慎重に考え、賢くスローダウンすべきだ。われわれの仕事が持っていた価値をよみがえらせ、商品を手にした顧客に本当の価値を理解してもらうことが肝要」と表明した。”

“どちらも、時代の流れを敏感に感じ取って「カタチ化」するデザイナーが行動した事例だ。プロダクトやグラフィック、インテリア、建築といった分野のデザイナーも同様であり、似たようなコメントを発したり、活動を展開したりしている。問題はこれをビジネスの仕組みにどう落とし込んでいくかであり、知恵と実行が必要になる。”

“これからのファッション業界はどうなっていくのか。業界を挙げての半年ワンサイクルではなく、さまざまなサイクルが共存してゆくのではないか。あるブランドは長く、あるブランドは短くと、サイクルそのものが分化していく。「定番として変わらないブランド」と「常に変化してゆくブランド」があっていいし、ファストファッションに代表されるような「大量生産によって機能や価格の合理価値を訴えるブランド」と「少量生産でデザインや服作りの技で価値づけしたブランド」があっていい。

“今までのように護送船団方式で「半年ワンサイクルに乗っておけば大丈夫」という考え方も、ブランド名が違うだけで同じような服が並んでいる売り場も、これからは通用しない。それぞれのブランドの「本質的な独自性」に沿ったサイクルを打ち出していくことこそが求められる。個々のブランドにとっての「最適なサイクル」を見極め、消費者に伝えてゆく必要があるし、それが理解されれば、おのずとブランドに顧客がついてゆく。それはまた、「大量で均質」ものから「少量で異質」なものへ、そしてそれらが共存する場へ、本来的な意味でのダイバーシティー=多様性が実現していくことを意味しているのだと思う。

いかがでしょうか。ファッション産業では「既存のシステム(その最たるものが、半年ワンサイクル)」が機能不全に陥り、その背景には「消費の成熟化」と「サステイナビリティ」という大きな潮流があるという分析は、大変説得力があるように思います。これからのファッション産業の方向性として、「本質的な独自性」に沿って「最適なサイクル」に移行することで、サイクルが分化する。また「大量で均質」なものから「少量で異質」なものへの移行がなされ、それらが「共存」することで「多様性」が生まれる、という意見が述べられています。考えてみれば、ファッションの本質的な価値は元々、均質性ではなく多様性であったはずです。ファッション産業がビジネスとして拡大する中で、そのもっとも本質的な価値が見失われたことが、現在のファッション産業の危機につながっているように思います。感染症で顕在化した積年の課題を解決して、ファッション産業が活力を取り戻すことを願っています。「服」は私たちの生活に密着した必需品です。必需品であればこそ、多様性を持った楽しい製品であってほしいと思います。

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