号外:グリーンリカバリーの行方、アジア諸国の動向

地球温暖化対策、気候変動対策では欧州連合(EU)が先行しています。なかなか対策が進んでいないのが中国、インドなど排出量の大きな国を抱えるアジアです。日本は、先ずは自国の排出量削減を強力に推し進める必要がありますが、同時にアジアの主要国として、アジア各国の排出量削減に貢献してゆくことが求められていると思います。自国の都合や経済性に捉われてこれ以上対応が遅れると、世界各国からの信頼を失うことになりかねません。アジアの温暖化ガス排出量削減ができなければ、地球温暖化を防止することはできません。

2020年9月8日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“新型コロナウイルス感染症で打撃を受けた経済を再生するために、環境対策を通じて景気浮揚につなげる「グリーンリカバリー」。欧州連合(EU)などが先頭を走り、国連など国際機関も各国に取り組みを促す。コロナ禍をきっかけに脱炭素社会に移行する流れだが、それに逆行するような動きが目立つのがアジアだ。”

“7月半ばに開いたインドとEU首脳によるテレビ会議で、EUのフォンデアライエン欧州委員長はインドのモディ首相に石炭利用の段階的廃止を提案した。6月下旬の中国との協議では、2050年以降のできるだけ早い時期に温暖化ガス排出の実質ゼロを実現すること、環境対策を強化しながら景気回復をめざすことの重要性を中国首脳に説いた。”

“しかし国際エネルギー機関(IEA)によると、アジアの2020年1~6月の石炭火力発電所の建設認可のペースは2019年の2倍で進んだ。米シンクタンクの調査では2020年前半の世界の石炭火力発電所の計画、着工のそれぞれ9割近くを中国が占めた。インドは5月に公表した景気対策で、生産能力拡大へ約50の石炭鉱区を競売にかけるほか、約7千億円を石炭輸送などインフラに投資する方針を示した。ベトナムの2020年前半の石炭輸入量は前年同期比で5割増えた。”

“石炭を使い続けるリスクはいくつかある。オーストリアとスウェーデンは4月、国内最後の石炭火力発電所を閉鎖。多くの国が石炭から手を引く中、今から新設しても50年前後の稼働期間を全うできるのか疑わしい。

石炭火力に潜む「座礁資産」リスク>の項を参照

石炭を使い続ければ地球温暖化の国際枠組み「パリ協定」の目標達成も難しくなる。同協定は産業革命からの気温上昇を2℃未満に抑え、できれば1.5℃以内にする目標を掲げる。1.5℃の実現には2050年ごろ、2℃でも2070年ごろには世界の温暖化ガス排出量を実質ゼロにする必要がある。“

“パリ協定の達成を重視するEUは中印に再生可能エネルギーの普及や異常気象による被害軽減で協力を申し出る一方、圧力をかける準備も着々と進めている。例えば国境炭素税だ。環境対策が十分でない国からの輸入品に事実上の関税を課す構想で、遅くとも2023年には導入する方針だ。原材料の採取などを含む製品寿命全体でCO2排出量を評価する「ライフサイクルアセスメント(LCA)」規制も圧力の手段だ。電気自動車(EV)は走行時の排出はゼロだが、生産段階ででた排出量も規制対象に加える考え方だ。導入の実現に向けた議論が内部で進んでいる。いずれも石炭を大量消費してつくられた鉄鋼や電力を使えば、4億5千万人を抱えるEU市場に輸出しにくくなる。

“アジア各国にも事情がある。IEAによると世界の電力需要は2030年までに2018年比で約7千テラワット時増える。うち7割がアジア太平洋だ。経済発展に伴い十分な電力供給が必要なアジア各国は、安価で多くの地域で採れるなど供給が安定する石炭を重要な資源と考えている。EUは2050年の脱炭素社会実現へカジを切り、2021年から7年間の予算(総額1.82兆ユーロ)の3割を気候変動対策にあてる。トランプ政権がパリ協定に背を向ける米国でも、2019年に再生可能エネルギーの電力発電が石炭を初めて上回るなど脱石炭が進む。世界の国別排出量で上位を占めるのは中国をはじめ、インドや日韓、インドネシアなどのアジア各国だ。アジアの排出減なくして、温暖化防止はあり得ない。

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