アダストリアのサステイナブル・コットン
衣料品の主要素材であるコットンについては、その生産過程で農薬や化学肥料が大量に使用され環境汚染が懸念されています。また農家で働く労働者の健康問題や強制労働、児童労働の存在が報告されています。華やかなファッション製品が製造される陰で、様々な課題を抱えるコットンですが、その課題を解決し、持続可能なコットン生産と、そのコットンからファッション製品を製造する取り組みが、アパレル企業側でも進められています。このHPでも米パタゴニアの取り組みについて紹介してきましたが、今回は、日本のアパレル企業であるアダストリアの取り組みを紹介します。
2020年9月11日付けSustainable Brands Japanに掲載された記事より、
上記で紹介されている製品に使用されている落ち綿とは、コットンの紡績工程で発生する、繊維長が短く使用できない部分のことです。通常は繊維くずとして廃棄されますが、それをリサイクルして製品に仕上げています。
“「niko and …(ニコアンド)」、「LOWRYS FARM(ローリーズファーム)」など、29のファッション・ブランドを展開するアダストリア(東京・渋谷)は9月7日、2025年までに全商品に使用するコットンを100%サステイナブル・コットンに切り替える宣言をした。同社はグローバル・イニシアティブ「Cotton 2040」へ参画し、原料の栽培過程などに独自の基準を設定。9月以降、基準を満たしたコットン含有率が100%の商品のタグにオリジナルのマークを表示する。”
“Cotton 2040を国内で推進する一般社団法人「ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(以下、ASSC)」によると、「現在世界では、綿花の生産に大量の農薬や石油系の化学肥料が使用されている。綿花生産には世界の耕地の2.5%が使用され、そこに世界で生産された農薬や化学肥料の10%が使用されている。」とのこと。農地で不適切にまた過度に農薬や化学肥料が使用されると、それが水源を著しく汚染することにつながるとともに、土壌の肥沃度を低下させ、さらに農家で働く労働者の健康、また生物多様性にも著しく有害な影響を及ぼしていると言われている。そしてそれら農薬、化学肥料の使用が、大きく気候変動に影響を与える温室効果ガスの排出を助長しているとされている。また、社会問題も同じく発生しており、2016年に米国労働省は、中国、インド、パキスタン、ブラジルを含む18ヶ国の綿花の生産プロセスには、児童労働や強制労働が存在すると報告している。”
“「綿花はリスクに対して非常に脆弱で、脅威にさらされている」という状況にファッション業界は直面し、喫緊の課題として対応が求められている。アダストリアは今年初頭からコットンに関する検討を開始した。「Cotton 2040」に参画し、ASSCとの情報交換や社内教育の強化などを進め、以下を満たすコットンを「サステイナブル・コットン」として独自に定義した。
*栽培過程において、水、農薬、化学肥料の使用量を削減していること
*土壌の保全および生態系に配慮がされていること
*生産者の労働環境が整備されていること
*上記項目について、認証機関の証明書を発行できること
項目を満たしたコットンの含有率100%の商品のタグにオリジナルデザインのマークを表示することで消費者に「見える化」する。コットンのほか、ポリエステルやレーヨンについても独自でサステイナブル素材の基準を定め、マークを表示する。“
“社会への宣言を行うことで、大きな取り組みが実務に落とし込まれて具体的に進むという効果がある。同社にはこれまでも、素材面などからものづくりをサステイナブルにするという方針はあった。しかしそれだけでは、商品企画や素材調達など、ものづくりに携わる担当者が実務でどう動くのか判断に迷う懸念があった。具体的な指針、目標があった方が全社の大きな動きになると考え、サステイナブルなコットンの定義や、実務担当者が取り組みやすい運用方法を生産部と何度も議論し、今回の宣言につなげた。”
“同社は、「商品、ものづくりをサステイナブルにすることは、事業そのものをサステイナブルにするための大きな一歩です。ファッション業界は環境負荷が大きいと言われることも多いですが、ファッションそのものはたくさんの人の毎日を豊かに、ワクワクさせてくれます。そういったファッションの「楽しさ」「おもしろさ」をいつまでも提供し続け、また感じ続けられるようにしたい。」という思いを今回の宣言に込めている。”
“ASSCによると、オーガニック・コットンの生産量は、世界の綿花生産の1%未満という状況であり、そのような中で、ブランドがオーガニック・コットンを含むサステイナブル・コットンの使用増量を行うことは、サプライチェーンの上流、特に最上流の農家での課題解決を行うためにも重要な取り組みとなる。また他ブランドへも影響を与え、消費者にも啓発を促す意義があるとしている。”
ファッション産業は環境負荷が大きい産業だといわれています。そのファッション産業で、環境負荷低減、持続可能な生産体制の構築を進めることは、ファッション産業自体が持続可能であるために必要なことです。またこのような取り組みを進めることで、消費者の理解と支持を得て、ブランドの差別化につなげることもかのうでしょう。アダストリアでは、サステイナブル・コットンを独自に定義しています。定義自体には定量的な規定は含まれず、認証機関での認証を求めているようです。どのような認証機関のどのような基準認証なのかを明示すれば、消費者にとって分かり易い、より透明性のあるキャンペーンになると思います。