号外:世界最強?「絶対に切れない」材料が誕生

ファッションでの環境配慮でもないのですが、ちょっとおもしろいニュースを見つぃけたので、ご紹介させていただきます。

2020年9月12付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

切れない材料「プロテウス」

“世界最強の材料はどれか。探求心に富む科学者らは長い歴史の中で様々な強い材料を開発してきたが、ついに「切っても切れない」材料を生み出した。評判通りの性能ならば、驚くほど頑丈な家や破られない金庫が現実味を帯びてくる。古代に遡れば、人類が使う道具は石から青銅、鉄製へと変わった。金属との出会いは生活を豊かにし、文明の幕開けにつながった。どうやっても切れない材料が実用化した先に、どんな未来が開けるのだろうか。”

新しい材料は英ダラム大学とドイツのフラウンホーファー研究機構が開発した。ギリシャ神話の海神と同じ「プロテウス」と名付けた。電動回転式カッターや電動ドリルを使っても傷がつくだけだ。ようやくここまで来たとする論文が英科学誌サイエンティフィック・リポーツに載った。ダラム大学のステファン・シニシェフスキ助教は「工具では切削できず、成型もしやすい材料は世界初だ」と胸を張る。あらゆる材料と強度を競ったわけではないが、状況証拠から「最強」に最も近いとみられる。“

“実態は金属とセラミックス(酸化アルミ)の複合材料だ。粉末のアルミニウムと発泡材を押し固め、数ミリメートル大の隙間が空いたアルミを作った。そこに直径約1.3センチメートルのセラミックスの球を埋め込んだ。厚さ4センチメートルの板に仕上げ、電動カッターで切る実験に臨んだ。だれもが「ひとたまりもない」と目を覆ったに違いない。カッターは、地雷にも耐える装甲車の鋼を数十秒で切り落とすサファイア製の刃を持っていたからだ。ところが仰天の結果が待っていた。壊れたのはカッターの刃だった。開始約60秒で摩耗した。円盤形の刃は直径11.5センチメートルから4.4センチメートルまですり減ったという。事実上の「世界最強争い」を制したと言っても言い過ぎではないだろう。人類の歴史の中で「もっと強く」と望む材料の開発競争が「化け物」を産み落とした。”

電動カッターでも切れない「プロテウス」

“研究チームは自然の生物から学ぶ「生物模倣」技術を応用した。アマゾン川流域に住む世界最大級の淡水魚ピラルクーは、どう猛なピラニアの牙を寄せ付けない。ピラルクーのウロコは小さな「部品」が重なり合い、階層構造になっている。ピラニアが牙を突き立てても部品がねじれて力を逃がし、傷がつかない。新材料は、埋め込んだセラミックスの球に刃が達すると、球が震えて刃の力を弱める。削れてできたセラミックスの細かい破片が刃の周囲の隙間を埋め、「土のう」のように刃の行く手を塞ぐ。強いにも関わらず、鋳造のように好みの形にもできる。用途は工作機械から身を守る防護服や、破れない扉や金庫、頑強な建物といくらでも思いつく。”

ピラルクーのウロコの構造

“他のライバルとも勝負し、真に再強化どうかを知りたくなる。「最強」といえば、ダイヤモンドを思い浮かべる人が多いだろう。研究チームも「あげて挙げるなら、ダイヤモンドかな」と明かす。ダイヤモンドは1つの炭素原子が4つの炭素原子と結びつき、規則正しい構造が硬さをもたらす。硬さの指標に「ビッカーズ硬度」がある。ダイヤモンドは7000以上。サファイアは2300で、金属で最高硬度とされる「超硬合金」でも1800程度だ。強さの尺度は1つではなく、厳密な比較は難しい。ただダイヤモンドは原子同士の結合が弱い部分に沿って力がかかると割れやすい。これを弱点とみなすなら、成型しやすい新材料の方が優位だ。”

“材料の進化に胸が躍るのは、人々の生活が材料とともに向上してきたからだ。紀元前1500年ごろに現在のトルコにあたる地域で製鉄技術が広まり、後の時代を含めて頑強な農機具や機械が社会の礎となった。強い材料は先端技術の開発も促す。「切れない材料ができたら、(それを)切れるような材料を作ろうとする人が出てくる」と言われている。こうしたあくなき欲望は時に、身近な生活とはかけ離れた武器や兵器の開発につながる。新しい材料の誕生は、その材料の価値や可能性をどう受け止めるのかと我々に問うかのようだ。プロテウスや次の「最強」の材料が社会に放たれたとき、いかに使いこなすのか私たちの知恵や自覚が試される。”

切れない材料の応用例

私たちの身の回りにある「物」は、何らかの「材料」で作られています。新しい、優れた「材料」は、新しい、優れた「物」の開発につながってゆくのでしょう。さて、「切れない材料」からは、どのような製品(武器や兵器ではなく)が生まれるのでしょうか。楽しみに待ちたいと思います。記事の中にあった、「生物模倣」技術にも興味を覚えます。自然が作り上げたものの中には、様々の優れた仕組みが隠されているのですね。余談ですが、私は大学を卒業する前に、アマゾン川流域を訪れたことがあります。アマゾン川中流の街マナウスで、世界最大級の淡水魚ピラルクーもピラニアも採れたてを見ましたし、食べてもみました(アマゾン川流域では、両方とも食用です)。ピラニアは日本で熱帯魚として見る小さなサイズではなく、鯛ぐらいのサイズがありました。これに大群で襲い掛かられたら、牛や馬でもひとたまりもないことを妙に実感しました。マナウスにもキッコーマンの醤油があったことを変に覚えています。土産物屋で購入したのはピラルクーのウロコでできた靴ベラです。1枚のウロコが1個の丈夫な靴ベラになっていました。とんでもない魚がいるものだと思いました。

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