アパレル業界の「セール前倒し」???
衣料品にはシーズン性があり、シーズン終盤には在庫を消化するため(=換金するため)に、「セール」と称して値下げ販売されることが常態化しています。衣料品は嗜好性が強い商品で、サイズや色目の問題もあり、生産したものをきれいに売り切ることは至難の業です。したがって、シーズン終盤にある程度は値下げ販売して在庫を消化することは理解できます。しかしこのところの店頭を見ていると、「セール」も度が過ぎているような気がします。大量に値下げ販売することが、アパレル企業の業績を悪化させ、ブランド価値を低下させることは明らかです。なぜ、このようなことが毎シーズン繰り返されるのでしょうか?
2020年10月5日付け日経クロストレンドに掲載された記事より、
“2020年の夏から秋にかけ、アパレルの「セール」は長期間に及んだ。9月下旬の4連休でも、まだセールの赤札が並んでいた。「70~80%オフ」を掲げているセレクトショップに入ったのだが、結局、何も買わずに退散した。それなりに仕立てられた服が、ここまで価格を落とさざるを得ないのか、こんなに値下げして、自らの価値をおとしめている商品は他にはないのではないか、と考え込んでしまった。”
“感染症の拡大による緊急事態宣言によって営業を自粛していたため、大量の在庫を売らねばならないという事情があってのことだろう。百貨店やファッションビルといった商業施設はもちろん、そこに売り場を展開しているアパレル企業、その下請けである生産工場も含め、在庫を減らすことが死活問題であることは理解できる。”
“セールのあり方については、10年以上前から物議を醸してきた。アパレル業界は半年をワンサイクルとした生産と物流のシステムで動いており、シーズン終盤には売れ残った服を値下げして売り切ることが常識となっていた。この構図は2008年のリーマンショックあたりまでは本来の役割を果たしていた。セール開始日の早朝から買い物客が行列をなし、人でごった返す店頭では販売員が飛び回っている。そんな売り場のエネルギーを買い物客は楽しんでいた。”
“その後、アパレルの売り上げが落ち込んでいく中、少しでも需要を喚起しようと、セール時期を前倒しする動きが進んでいった。当初、春夏物はお盆明け、秋冬物は1月下旬だったセール時期は、春夏物は6月下旬から、秋冬物は正月からとなった。ただセール時期が早まることは、シーズン終盤に値下げして売り切るセール本来の目的との矛盾を生み出した。セールを前倒しするということは、シーズン渦中の服を少し待てば安く手に入れられることになるからだ。正価で買っていた顧客がセールに流れることはある程度予測できただろうし、正価で買う顧客が減れば、結果的に売上は減る。売り上げ確保のためのセール早期化 → 正価での買い上げ率減少による売り上げ低迷 → さらなるセール早期化という悪循環が進んでいった。”
“アウトレットモールでも同様なことが起きている。1980年代に米国で、流行遅れやささいなキズがあるものなど正価で販売できない商品を安く販売するアウトレットモールが登場した。日本でも全国あちこちにできて活況を呈しているが、思わぬゆがみを生み出してもいる。アウトレットモール専用商品をつくって売るようになったのだ。最初からセール価格で売る商品なので、極端な言い方をすれば「安かろう、悪かろう」的なものづくりになっている。これは正価よりも安く買えるというお得感を期待して買っている消費者を裏切るものだ。短期的に売上を確保できても、中長期的には企業やブランドの価値を下げることにつながりかねない。”
“一方、消費者はこうした動きをどう感じているのか。季節のさなかで行われるバーゲンセールに「安く買えてうれしい」というより、「どこかおかしい」と感じているのではないだろうか。そのような消費者の中には、商品が意図するところが明快で、それを気に入れば、正価で買うという人もいる。つくるプロセスやコストのかけ方について、なぜそうなっているのかという透明性が問われているし、そこに説得力がなければ売れないというのが、これからの消費市場のポイントになると思われる。”
“残念ながら今のアパレル業界は、目先の売り上げ確保のため、セール商品の比率をあらかじめ見込んで、それを含めた売り上げ計画を組んでいる。セール用商品を別につくっておくブランドもある。セールやアウトレットのために専用商品をつくって売るという行為は、徐々にでも廃止していくべきだろう。企業の透明性が問われる時代にあって、その方向性と大きくずれているからだ。消費者は企業が社会的責任に基づいた活動をしているかどうかでブランドを評価する。そしてそれが、商品を買うか否かに直結するようになってきているからだ。”