衣料品の輸入浸透比率:リサイクルを困難にしている理由②

皆さんが衣料品店を訪れると、様々な服を目にされると思います。高級スーツ等を除くと今では服を仕立てるというのは非常に少なくなりました。皆さんが身に付けている衣料品はほとんどが既製服で、できあがった状態の服を衣料品店で購入しています。これらの既製服はほとんどが輸入品です。2016年の衣料品の輸入浸透比率は、数量ベースで実に97%、金額ベースでも77%です。(経済産業省製造局生活製品課資料より)

衣料品が「輸入品」であると言う時には、第1義的には海外で縫製された衣料品であることを意味します。日本国内で販売されている衣料品について、最大の輸入国は中国で同年の輸入量の68%を占めています。以前は90%以上という時期もありましたから、このところ割合は減少しています。それに続くのは東南アジア各国からの輸入です(ベトナム:11%、バングラディッシュ:6%、カンボジア:4%等)。

中国の縫製工場

縫製は典型的な労働集約型産業で、人件費の安い国での生産が多くなります。以前は圧倒的に中国が多かったのですが、最近は中国の人件費も上昇してきました。このため生産の一部が中国からさらに人件費の安い東南アジア各国へシフトしています。それでも中国が占める割合が高いのは、中国では素材の調達も可能だからです。日本のアパレル企業が中国で縫製する場合、使用する材料のすべてをパッケージにして中国に送り込み、縫製だけを委託しているわけではありません。中国で生産・調達できない特殊な表地等の材料は送り込みますが、中国で調達可能な材料はできるだけ現地調達します。その方が物流としても合理的ですし、コストも抑えることができます。すべての材料が中国現地で調達され、中国で縫製され、できあがった製品だけが日本に輸入されるケースも多々あります。中国では天然繊維、合成繊維に関わらず、原料から中間材料である織・編物、さらに縫製に必要な様々な服飾資材まで幅広い繊維材料の生産が行われています。中国で縫製する場合には、それら中国製の材料を活用することができます。この強味があるために、まだまだ中国縫製の割合が高くなっています。

この海外縫製の多さとそれに付随する海外材料の調達が、日本国内で使用後衣料品をリサイクルする場合に事態を更に複雑にしています。

リサイクル(廃棄後の再資源化)の前提は素材の分別(同一素材を集めること)です。分別しなければ再資源として利用できません。ウールや綿は天然物です。産出された地域や年度によって決して一様ではありません。合成繊維の代表格はポリエステルですが、ポリエステルを生産している企業は世界中に(特にアジア地域に)たくさんあり、各企業のポリエステルは決して同じではありません。粗原料は石油加工品で(エチレングリコールとテレフタル酸)で高純度のものが世界的に取引されています。しかしその後の製造工程や使用する添加物等はポリエステル製造各社によって異なります。したがって広義ではポリエステルという同一素材ですが、厳密には同じものではありません。これらが複合され、組み合わされて使用されています。更に一部の材料の調達については現地に任せているために、素材の履歴が十分にトレースできないといった現状もあります。

前回衣料品の素材分別の作業的な困難さについて書きましたが、複合素材の分別は実質的に不可能であり、また分別できた単一素材であってもその組成は様々で、決して一様ではありません。結論として衣料品の素材分別は、出来たとしても非常に大雑把で、不純物をたくさん含んだものになってしまうということです。この事実が分別後のリサイクル・プロセスやリサイクル後の再資源化(用途)に様々な影響を与えています。ペットボトルの素材はPET(ポリエチレンテレフタレート)です。アルミ缶の素材はアルミニウムです。リサイクルする場合も比較的純度の高い再資源化が期待できます。ペットボトルの国内Recycle率は2017年実績で85%です(PETボトルリサイクル推進協議会HPより)。再資源化されたものはPETシートやポリエステル繊維、Bottle to Bottleで再利用されています。アルミ缶の国内リサイクル率は2018年実績で94%です(アルミ缶リサイクル協会HPより)。CAN to CANのリサイクル率は71%と高率です。衣料品に使われる素材は色々で、様々な制約条件があるために精度の高い素材分別は期待できませんし、純度の高い再資源化も期待できません。ペットボトルやアルミ缶は国内で生産され、使用され、回収され、再利用されています。国内に生産基盤がないものが再生資源として有効に流通することは、希少性のあるものや簡単に素材還元できるあるいは単一素材で汎用性があるものなどに限定されます。これも衣料品のリサイクルが進まない理由のひとつです。このような背景がある衣料品のリサイクルの実態については、また別の回で紹介させていただきますが、素材分別の精度が低いために、リサイクル後の用途が限定され、その用途での需要が伸びなければリサイクルも進まないという状態になっています。衣料品のリサイクルを考える時(サステイナビリティ)には、再資源化した後の出口(用途)を考えておくことが重要です。 

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