号外:竹のお箸、老舗メーカーがブランディングに挑戦

私たち日本人の食生活に欠かせないお箸。もともとは竹から作られていました。九州にある竹のお箸の老舗メーカーが、自社製品のブランディングに挑みました。飲食店にあるような安価なプラスティック製の箸や割り箸より、竹で丹念に作られたお箸の方が、手に取った時に落ち着きますよね。私たちの日常生活に根付いた伝統工芸品を、新しい視点でブランディングした企業の話題です。

2020年12月11日付け日経クロス電子版に掲載された記事より、

“日本人の食生活に欠かせないのが「箸」だ。安価で大量生産可能なプラスティック製の箸が市場に多く出回っているが、もともと箸は竹から作られていた。日本国内での竹製箸の生産量は年々減少しており、その多くが輸入された間伐材を使い、国内で塗装を施したものである。熊本県の西北に位置する南関町、全面積の約半分を森林が占める、名水の里としても知られる自然豊かな町だ。ヤマチク(熊本県南関町)は、創業以来半世紀以上「竹の箸」だけを作り続けてきた企業だ。これまで中川政七商店やCO・OP(生協)などへのOEMが中心だった老舗は、2019年より自社ブランド「okaeri(おかえり)」を立ち上げた。”

ヤマチクの竹の箸「okaeri」

“自社ブランドを発案したのは、IT企業を経て、24歳のときに家業であるヤマクチに入社した3代目の山崎彰悟専務である。きっかけは、同社の思いを世に伝え、社員のやりがいを生み出すため。創業以来、純国産の天然竹を職人が一本一本刈り取り、同社の工場で加工から塗装、包装まで一貫して物づくりをしてきた。しかしながら同社はOEMが中心で、「OEMだけでは社員の精神的なやりがいも、物理的なやりがいも保つことは難しかった」(山崎氏)。”

“丹精を込めて生産しているのに自分たちの名前が表に出なければ、精神的なやりがいは得づらい。継続的に満足いく給料がもらえなければ、物理的なやりがいにもつながりにくい。この思いが自社製品のブランド立ち上げにつながった。ブランドづくりで山崎氏が一番こだわったのは、社員を巻き込むこと。会社のブランドでもあるが、社員のブランドにならないといけない。社員26人中26人が製造を担当しており、営業や経理などバックオフィス業務は社長と山崎氏で行っていた。ブランドづくりは有志を募り、スタートした。“

“マーケティングや商品企画など、メンバー誰一人やったことがない状態でスタート。毎週1時間、専務と4人のメンバーで勉強会を実施した。そのほかにも専務が紹介した課題図書を読み、ブランディングについて学んだり、自社の思い、強み・弱み、歴史などを書き出したりした。山崎氏は「思いに理由を付ける作業をしていった」と振り返る。同社は社員26人中女性が22人で、その多くが子育て世代だ。箸は彼女たちが主たる顧客層なので、実体験に基づきどういったものが欲しいのか、こういったものがあればいいのに、こんなシーンで欲しいといった、彼女たちが納得するものを作りさえすればよいという。”

“幾度もの勉強会を経て、メンバーから提案されたのは「家族で使う箸」だった。「食卓の中心、家族の中心に必ず食事があり、箸は必要不可欠なもの。お箸入れをすっきりさせたい、子供たちがどの箸を使うかでけんかする、この2点を解決したい。」との考えだ。同社の強みを考え、無地の竹の箸を作ることもすぐに決まった。「箸が輸入木材で生産されるようになった背景には、箸全体を塗装し木材の良しあしが見えなくなったことがあると思う。素材感を生かすために塗装しない、引き算のデザインができることに気づいた」(山崎氏)という。”

“ブランド名は、実はプロダクトが決まる前に決定した。メンバーとクリエイティブディレクターとの打ち合わせの雑談の中で、「竹の箸に戻ってきて欲しい、『おかえり』のような」とメンバーの一人が発言したことがきっかけだった。家族で使える、竹の箸に戻ってきてほしい、資源としての竹の循環性など、1つのワードでブランドコンセプトが決まっていった。”

“どんなプロダクトにするのか、メンバーで『おかえり』というワードをもとにアイディアを深堀する日々が続いた。竹の箸だと見た目でわかるように、竹の箸に戻ってきてほしいという思いからレトロなイメージを共有した。昔食堂などに頭が赤い竹の箸がたくさんあり、それをリメークするのはどうかというアイディアが出てきた。「素材感も生きるし、ブランド名にも合っているプロダクトになりそうだと感じた」(山崎氏)。家族で使えるよう、長さや太さを変え同じデザインで5種用意した。種類を増やせば生産コストはかかってしまう。そこで工夫したのが、パッケージだ。一種のパッケージで全サイズに調整できるデザインにした。

「okaeri」のパッケージ

“価格設定にも彼女たちの原体験が生きている。「最重要視したのは、彼女たちが納得してお金をだすことができるか」(山崎氏)。家族で使用することを想定していたので、3膳で5000円程度であれば購入できるし、ギフトとしてもよい値段だと考え、大人用1650円、子ども用1430円という設定になった。”

“ブランドの立ち上げから約2年。okaeriが完成し、合同展示会「大日本市」でお披露目をした。展示ブースには企画メンバーが立った。okaeriの説明や生産背景など、メンバーで共通認識を擦り合わせて対応した。彼女たちは約1年間で、商品企画や開発、経理、営業、接客までやってのけたのだ。okaeriは、販売から1年で2000膳以上を販売、英国で開催される世界最高峰のデザインアワード「Pentawards 2020」で銀賞を獲得した。新型コロナウイルス感染症の流行拡大で、OEMの受注が減ったがその間はECが好調だったという。2020年9月ごろからは、新規の大手取引先やノベルティーの受注が決まりV字回復を果たした。社員を巻き込んでブランドを立ち上げたことで、ヤマチクの仕事の幅が広がった。当初のコンセプトである家族で使えるという視点だけでなく、環境に配慮した商品という視点も加え、同じアイテムでもさまざまな角度から価値を生み出すブランドに育ててゆく方針だ。”

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