号外:ドンペリの巨匠は富山へ、日本酒の底力-①

このところ、めっきり寒くなってきました。北陸や東北では大雪に見舞われています。寒い時期には、暖かい鍋料理と熱燗が恋しくなります。国内では若者のアルコール離れが進み、日本酒の消費量も年々少なくなっていると聞いて、とても残念に思っています。お米から作る日本酒は、日本食と共に世界に誇れる日本の文化だと思います。飲み過ぎて、酔いつぶれるようでは論外ですが、適量をわきまえて、おいしい料理と一緒に楽しみたいと思います。今回は、ちょっと元気になれる日本酒の話題です。

2020年12月13日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“世界における日本酒のビジネスとしての可能性を確信し、果敢に挑む人々がいる。ワインの道を究めた「ドンペリの巨匠」が、日本の富山県で2021年春に酒蔵を完成させる。日本酒全体の輸出金額の15%近くを占めトップランナーを自負する「獺祭(だっさい)」は、米国・ニューヨーク州で2022年にも酒蔵を稼働する。”

「日本酒の世界市場でのポテンシャルは非常に大きい。一方、日本国外では過小に評価されている」。こう断言するのはリシャール・ジョフロワさん(66)。フランスの高級シャンパン「ドン・ペリニヨン」の醸造最高責任者(シェフ・ド・カーブ)を28年もの長きにわたり務めた人物だ。そんなドンペリの巨匠が次なる挑戦の場として選んだのが、日本酒だった。”

“フランスでのシャンパン造りの傍ら日本に「数え切れないほど訪れ、人々や文化を愛してやまない」というジョフロワさん。だが自ら蔵まで建て酒造りを始めるとは、よほどのことだ。ジョフロワさんは、ワインの原料となるブドウと比べても日本酒の原料である米が世界中、幅広い地域で生産され食されている点に心を動かされたと明かす。日本酒には「数百年にわたりこれだけの規模で米を使った酒が愛されていることは貴重なことだ」とリスペクトを惜しまない。そこで自らがシャンパンで長年磨いたアッサンブラージュ(ブレンド)の技法を生かすことで、日本酒の可能性を広げられるとみた。世界中の料理人や美食家の認めるワイン造りと共通する哲学で、プレミアムな日本酒造りに臨む。

白岩の蔵の建設現場(富山県立山町)

“日本で酒を造る場所には、新国立競技場などを手掛け世界で知られる建築家の隅研吾さんを介して協力を得た、桝田酒造店(富山市)の桝田隆一郎社長の故郷、北陸・富山県を選んだ。日本海に面し後背には標高3000メートル級の北アルプス・立山連峰などの山々が連なり、豊富な水に恵まれた米どころ。蔵はその立山の麓、同県立山町の白岩地区に2021年春に完成予定だ。設計は隅さんが担い、醸造施設と関係者向けの宿泊施設を1つ屋根の下に集め、周りののどかな田園風景となじむ落ち着いた外観にした。”

“蔵の所在地から名前を取った酒造会社、白岩(立山町)を立ち上げ、同社が企画し醸造は桝田酒造で行った初の日本酒「IWA 5」を7月に発売した。1本720ミリリットル入りで税別1万3000円と日本酒の中では高価格帯に位置する。ジョフロワさんが複数の酒を巧みにブレンドし、他にはない日本酒に仕上げている。バランス、口当たり、複雑さのハーモニー。ジョフロワさんがIWA 5で追及したのは、ワイン造りと共通する3つのハーモニーだった。それらを実現するため、杜氏(とうじ)とも議論を重ねながら、味や香りの特性が異なる「山田錦」「雄町」「五百万石」の3つの酒米、5種類の酵母からなる酒のブレンドへとたどり着いた。国内外の料理人や美食家、ジョフロワさんのファンからは「新しい感覚」と好評を得ているという。”

「IWA5」

“こうして編み出したブレンドの妙を、ジョフロワさんは毎年絶えず進化させていく方針を掲げる。ブドウの育った年によって味わいが大きく異なるワインと比べて、日本酒は生産年による味の変化が限られる。それでも「毎年IWA 5のレシピを変えるのは会社にとっても消費者にとってもリスクだが、その分気に入ってもらえたときのリターンが大きい」と説く。IWA 5のラベルに記載されたQRコードを読み取ると、その年のレシピも分かるようにする。「日本酒の限界に挑戦したい。遊び心もあるでしょう」とほほ笑むジョフロワさん。ボトルのガラスは通常の日本酒の瓶より厚めにして保存性を高め、時とともに味わいが増す日本酒の「エイジング」の可能性も探る。”

“ボトルをデザインしたのは、「アップルウォッチ」などを手掛けたマーク・ニューソンさん。黒地に白い文字が映えて強い印象を残す意匠で、海外市場を狙う。それはジョフロワさんが課題視する「日本国外での過小評価」を打ち破りたいがため。海外で流通する日本酒の価格は、従来現地生産された安価な清酒の影響などもあって中価格帯にとどます。そこで価格を引き上げるため、中身もデザインも趣向をこらした日本酒を造る。海外で認められれば、国内の販売もついてくるとみる。既に香港、台湾、シンガポールへ出荷を始めた。「日本酒の未来は日本の外にある」との考えに揺るぎはない。”

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