号外:WHOと中国、新型コロナウイルス感染症の発生源調査

日本で、世界で、新型コロナウイルス感染症の被害が止まりません。各国でワクチンの接種が始まっていますが、その効果が表れ状況が改善されるためには、まだまだ期間を必要とするようです。日本国内でも、医療関係者や高齢者、基礎疾患のある方々へのワクチン接種が先行し(このこと自体は当然のことですが)、一般の方々への接種は今年の後半以降になりそうです。ワクチン自体も国内で生産されるのではなく輸入が前提ですから、生産国からの出荷が滞れば、国内でのワクチン接種が遅れることになります。現時点で、短期的にはどうすることもできませんが、国の安全保障という観点からも、感染症対策、パンデミック対策を再検討する必要があります。

さて、新型コロナウイルス感染症は歴史に残るパンデミックになっていますが、発生国(中国)の協力が得られず、発生源や発生経緯についての十分な調査がなされていません。発生源の解明が、次のパンデミックを予防するために必要なことは、私のような素人にもわかります。WHOは、武漢で最初に原因不明の肺炎が発生してから1年以上(!)たって、ようやく調査団を中国に送り込みました。中国政府の協力が得られずにこのタイミングになったわけですが、調査の内容自体も不十分であるとの指摘がなされています。

2021年3月30日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

世界保健機構(WHO)は30日、最初に新型コロナウイルスの感染が広がった中国湖北省武漢市で今年の1~2月に実施した発生源調査の結果を発表した。動物から人間への感染が最も可能性が高いとし、ウイルス研究所からの流出説はほぼ否定した。情報開示に消極的な中国の姿勢を背景に、十分な情報を得られていないとの指摘を盛り込み、調査権限の弱さも浮き彫りになった。

“報告書はウイルスの発生源について可能性順に4つの推定を発表した。最もあり得るシナリオとして「動物から中間宿主を経由して感染」したとの見方を「考えられる、または非常に可能性が高い」との表現で示した。コウモリやセンザンコウから似たウイルスが見つかっていることや、中間宿主を介したウイルス感染は他にも事例があることから判断した。”

“2番目に可能性が高いのが「動物から直接の感染」で、「可能性がある、または考えられる」とした。コウモリとの接触が多い人からコウモリのコロナウイルスに対する抗体が見つかっていることなどを理由とした。次に中国側が熱心に主張していた「冷凍食品による外部からの持ち込み」について「可能性はある」と表現した。実際に輸入した冷凍食品の包装の外側から新型コロナウイルスが見つかった例があり、低温に耐える可能性がある。ただ冷凍食品が発生源になったという証拠はなく、3番目のシナリオにとどめた。”

“最後に中国科学院武漢ウイルス研究所からウイルスが流出したとの説は「きわめて可能性が低い」との見方を示した。新型コロナウイルスが確認された2019年12月以前に、類似のウイルスを扱っていた研究所がないことなどを理由として挙げた。”

“ただ、人間への感染がいつどこで起こり、どうやってウイルスが広まっていったかには切り込めなかった。武漢で多数の感染者が見つかる前のウイルスのふるまいは未解明のままだ。報告書は、現地調査で得られた情報はこうした点についての結論を得るには不十分だったと論じた。中国側は感染拡大から約1年もWHOの本格的な現地調査を許さなかったほか、感染者の生のデータを提供するのを大部分で拒んだとの報道もある。

WHOの中国武漢市での調査経緯

WHOは武漢市での調査を1月下旬~2月上旬に実施した。最初に集団感染が見つかった華南海鮮卸売市場や、武漢ウイルス研究所を訪れた。調査が終わってから現地で開いた記者会見では同じ4つの推定について、順位を付けずに公表していた。中国の外務省はこれまで「中国で最初に感染が見つかったからといって、中国が発生源とは限らない」と主張してきた。初動の遅れによる世界的な感染流行の責任追及を避けたい政治的な意図がうかがえる。今回の調査報告書は輸入食品を起源とする説など、中国側の主張をなぞる説も盛り込まれた。”

バイデン米政権はWHO調査の独立性について疑問を呈してきた。ブリンケン国務長官は米CNNの取材に「調査報告書は中国側が執筆を手助けした事実を含め、方法に懸念がある」と述べた。中国外務省は29日の記者会見で、ブリンケン氏の発言について「理由のない非難だ」と否定した。「国際調査団は調査期間中、研究所などを訪れ、医療従事者や研究者らと話した。WHO側の要求に沿って手配したものだ」と強調し、透明性をアピールするのに躍起だった。”

WHOの調査は対象国の同意が前提で、強制的な権限を持たない。自国で新型コロナウイルスが発生したとの結論を嫌う中国側に対し、十分な協力を求められなかった面は否めない。パンデミック対応全般を含め、今後、WHO改革を求める声が高まる可能性もある。

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