号外:WWFの報告、世界の森林破壊の現状

日本国内で大規模な森林破壊が行われているとの認識はありませんが、WWF(World Wide Fund for Nature:世界自然保護基金)の報告『森林破壊の最前線〜変わりゆく世界における森林減少の要因と対応』によると、南米やサハラ以南のアフリカ、東南アジア、オセアニアを中心とする世界24カ所で、2004年から2017年の間に日本国土の1.2倍(約4300万ヘクタール以上)の森林が減少したとのことです。

森林が破壊される事情は各地域によって異なりますが、大規模ないし小規模な商業的農業植林地の開拓インフラ整備採掘など自然資源の採取などが主な要因です。森林の減少は地球温暖化や生物多様性の損失に直結するばかりか、新型コロナウイルスのような動物由来の感染症を引き起こすリスクも高めると言われています。これ以上の森林減少を食い止めるため、国際的な枠組みや国、地方行政、企業、先住民、地域住民、NGOなどのさまざまな関係者によって、世界各地で色々な取り組みが行われています。しかしそうしたいずれの取り組みも、森林破壊を抑制することに顕著な効果をもたらすには至っていないようです。報告書は、「今こそ自然が私たちにもたらしてくれる恵みを再評価する時であり、中でも見直すべきは森林だ。森林保有国から、森林減少を招く消費や暮らしをしている国に至るまで、すべての人々が力を合わせて行動を起こす必要がある」と強調しています。

例えばインドネシア・スマトラ島では、自然林を大規模に伐採した後にユーカリやアカシアといった製紙原料用の広葉樹が植えられています。これらの広葉樹は成長のスピードが速く、5〜7年で収穫され、且つ1種類しか植えられないため、元あった自然林の環境とは大きく異なった環境になっています。またインドネシアに多い泥炭湿地を人為的に乾燥させ、産業用の植林地や農地として利用しています。湿地を乾燥させる過程では、地中に含まれている炭素が大量に噴出されます。さらに、そこで野焼きや焼畑を行ったり、もしくは自然発生的に火がついてしまうことによって大規模な火災が発生して大きな問題になっています。このため2015年にはCO2換算で17億トンもの温室効果ガスが排出されたと言われています。

冒頭に述べたように、日本国内で大規模な森林破壊が行われているとの認識はありませんが、日本は木材や紙、パーム油、天然ゴム、バイオマス燃料、大豆、牛肉など多くの林産物、農畜産物を海外から輸入し、消費しています。その時点で、日本に暮らす我々のビジネスや生活は、森林減少と決して無関係ではなく、大きな関わりを持っています。それらの原料の多くが生産されているインドネシアでは、前述のように、森林の伐採によって大きく生態系が損なわれ、場合によっては人権問題も発生しているのです。

<2021年2月12日付けSustainable Brands Japan電子版に掲載された記事を参照>

森林が破壊されると言っても、現地で産業を興し、そこに住む人々の生活を維持、向上させていくことも大切です。むしろ現地の人々にとっては、森林を伐採して開発する以外には選択肢がなく、森林破壊による悪影響を懸念するような余裕もないのが実情かもしれません。インドネシアだけではなく、ブラジルのアマゾン川流域の熱帯雨林でも同様な事態が発生しています。森林破壊によってもたらされたかもしれない産物を消費することで、豊かな生活を送っている日本のような国で、私たちはどのように行動すれば良いのでしょうか。無関心を装うことは事態を悪化させるだけです。企業も消費者も、現実に目を向け、提供される林産物や農畜産物が適正な管理によって生産されたものかどうかに注意を払わなければなりません。我々が関心を持ち、正しい情報をもとに判断するようにならなければ、森林破壊を止めることはできません。また森林保有国の人々が、森林を破壊することなく生活を営めるような支援を実施するための国際協力も必要です。森林を守ることが地球環境の維持、改善につながり、気候変動を緩和することもできるでしょう。未来の世代が安定した生活環境を受け継げるように、現代の私たちが考え、行動しなければならないのだと思います。

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