号外:レアメタル不要の電池、日本製紙が開発へ

木質材料(セルロースナノファイバー)を主素材とし、レアメタルを使わない電池(蓄電池)開発の話題です。再生可能エネルギー発電の拡大や自動車の電動化によって脱炭素を進めるためには、高性能電池の開発・生産が欠かせません。現在主流のリチウムイオン電池に使われるレアメタルは埋蔵量や生産地が限られ、その安定的な確保が難しく、価格も高騰しています。そのレアメタルを使わず、自給できる木質材料を活用して高性能電池を安定的に生産確保できれば、日本の産業競争力を大きく強化することになると思います。

2021年4月26日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

日本製紙は世界的に需要が逼迫するレアメタルを使わない高性能電池の開発に乗り出す。木質材料を使い、容量は現在主流のリチウムイオン電池の約2.5倍となる。まず再生可能エネルギー向け蓄電池としての利用を目指し、将来は電気自動車(EV)での採用も狙う。実用化すれば脱炭素に欠かせない高性能電池の安定生産につながる。”

“EVが採用するリチウムイオン電池や太陽光発電所に使う蓄電池はコバルトやリチウムなどのレアメタルや鉛などを使う。レアメタルは埋蔵量や生産地が限られているうえに需要が急増しており、2021年2月にコバルト価格は約2年1ケ月ぶりの高値を付けた。各国政府は温暖化防止に向けガソリン車の販売規制に乗り出しており、EVなどの電動車の生産台数は増える見通し。さらに天候に左右される太陽光や風力でつくった電気をためるためにも電池需要は拡大する。

“日本製紙は木の繊維をナノ(ナノは10億分の1)メートル単位にまでほぐした「セルロースナノファイバー(CNF)」を使い、東北大学と共同で開発する。同大の福原幹夫リサーチフェローが、CNF表面にあるナノ単位の凹凸部が電子を吸着することを発見した。CNFを使った電池は世界で初めて。CNFを積層させ、大量の電気をためられるようにする。原理は一部のEVなどで使う、大量の電気を貯蔵できる蓄電装置(スーパーキャパシタ)と同じだ。急速充放電でき、電解液も使わないため耐熱性も向上するという。レアメタルを使わない分、量産化した際の製造コストはリチウムイオン電池と比べ抑えられる見通しだ。”

蓄電性能を示す重量エネルギー密度は、リチウムイオン電池の約2.5倍となる1キログラムあたり500ワットを目指す。2025年にも提案を始め、当初は太陽光発電パネルの裏に設置できる横1メートル、幅1.6メートル、厚さ1.3ミリメートルの蓄電鯛(3.2キログラム)を開発する。日本製紙と東北大学はCNFを蓄電材料とすることについて特許を申請している。実用化に向け電池メーカーなどと共同でCNFを積み重ねる技術を開発する。

蓄電部分には人体に有害な鉛やカドミウム、水銀、硫黄を使わず、廃棄処分も容易になる。電極にはアルミニウムの使用を想定している。CNFを混ぜた強化樹脂はケース部分にも使える。蓄電部分をカートリッジ形式にすれば電極を切り離した後に土中に埋めることもできる。リチウムイオン電池や鉛蓄電池は内部の化学反応を利用して充放電するため、電気を蓄えたり流したりするのに時間がかかっていた。新たな蓄電池は固体と期待の電気二重層という物理現象を応用し、素早く充放電できる。

CNFは紙原料のパルプからつくる。日本製紙はCNFが金属イオンや金属ナノ粒子を多く吸着できる点をいかし、大人用紙おむつを2015年に発売した。抗菌・消臭効果を活用した商品は世界初だった。CNFを年500トン生産できる世界最大級の設備を石巻工場(宮城県石巻市)で2017年に稼働させた。ペーパーレス化で主力の紙事業が落ち込むなか、新素材を成長の柱に拡大する方針だ。”

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