オンワード樫山、売り方も品ぞろえも変えたOMO型店舗の狙い

まだまだコロナ禍は収まる気配が見えません。東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に発出された緊急事態宣言は5月末まで延長され、さらに愛知県と福岡県が対象地域に加えられました。不要不急の外出自粛が呼びかけられ、大型商業施設の休業や時短営業が続いています。その影響を受けているファッション業界の苦闘も続いています(飲食、旅行、宿泊、レジャー産業なども同様ですが)。これまでにない厳しい事業環境ですが、将来に向けて「変化」を求める試行錯誤も始まっています。新しい試みが必ずしも成功するわけではないでしょう。しかし具体的に考えて行動することでしか得られない経験の中から、事業再生の可能性が広がっていくことを期待したいと思います。

2021年4月30日付け日経クロストレンド電子版に掲載された記事より、

オンワード樫山(東京・中央)が2021年4月、リアル店舗とECのメリットを融合した新業態店「オンワード・クローゼット・ストア(ONWARD CROSSET STORE)」の展開を開始した。千葉県船橋市にある「ららぽーとTOKYO-BAY」内に旗艦店を設け、同社が「OMO型店舗」とうたった新業態店の特徴は、これまでの同社のリアル店舗と比べて大きく3つある。”

新業態店舗の外観

“1つ目は、商品の売り方だ。これまでは、傘下のブランドがそれぞれ打ち出した世界観に共感して集まった利用者に対して、ブランドが企画した衣料品を、リアル店とECで販売してきた。これに対して新業態店は、ブランドの世界観ありきではなく、消費者のニーズをまず見極め、それらの消費者が「今、欲しい」と考えている商品を取り揃えて販売していく方針だ。”

“2つ目は、扱う商品の範囲だ。これまで原則、衣料品だけを扱う店を、傘下のブランドごとに、主に百貨店やショッピングセンターの中に出店していた。だが、今回の新業態店は消費者ニーズにいち早く応えるのが狙い。そこで、出店場所こそ従来通りだが、店内を「WORK」「HOLIDAY」「WELLNESS」の3つのゾーンに分け、衣料品だけでなく広義のファッションからビューティー、食品、生活雑貨まで、幅広い商品を取りそろえることにした。「23区」「any FAM(エニィ ファム)」「#Newans(ハッシュ ニュアンス)」といった複数の自社ブランドの衣料品をそろえたのに加え、オーガニックコスメブランド「ARGITAL(アルジタル)」のスキンケア用品など、独自に仕入れた買い付け商品も多く店頭に並べた。このため、店頭の見た目はこれまでのオンワード傘下のリアル店舗ではなく、いわゆるセレクトショップに近い。

衣料品の販売

“3つ目は、アパレル領域におけるデジタル技術の積極的な活用だ。デジタル技術を使うことで、利用者の利便性向上とともに、リアル店へ自然に誘導する形での集客を図る。具体的には下記のようなサービスを開始した。

「クリック&トライ」:豊富な品ぞろえを持つオンワード樫山の自社EC「オンワード・クローゼット」上の商品を、ブランドの垣根を超えて店舗に取り寄せて試着・購入ができる。

「パーソナルスタイリング」:利用者が自分の都合の良い時間を予約して、リアル店舗への来店でもオンライン上でも、指名した新業態店のスタイリストから気になる商品の詳細を聞いたり、スタイリングのアドバイスを受けたりできる。

「スタイリングライブ」:毎週金曜日に様々なテーマで配信されるライブ動画を見た利用者が、紹介された商品をECで購入したり、店頭での試着を予約したりできる。

「カスタマイズ」:店頭に置かれたタブレット上で好みの色・形と服に合わせたシューズ、身長を入力し、オンライン上で自身のフィッティングイメージを確認できる。「23区」ブランドのパンツ3種類への対応から始めている。“

「カスタマイズ」サービスのイメージ

“ブランドありきの従来の売り方は既存店で続けつつ、新しい売り方を試行錯誤しながら、今後の店舗のあり方を探るのが新業態店の狙いだ。単店および事業全体での売上高など具体的な目標は、コロナ禍の影響もあり、定めていない。ある程度の見通しが立てば、現状ではまだ不足している情報システムへの投資と多店舗展開を、本格的に検討していくとしている。そうなれば、2021年2月期で360万人を突破したオンワード樫山の会員プログラム「オンワード・メンバーズ」の加入者に対して、新業態店から来店を働きかけるなどのマーケティングも展開できる可能性が高いという。”

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