環境省資料「ファッションと環境」

環境省のHPに–「ファッションと環境」調査結果–という資料が掲載されています(2020年3月の報告)。ファッション産業に関係する環境負荷について総合的に報告されており、また環境負荷を低減するための企業の取り組みなどについて紹介されています。下記はその内容の抜粋で、まとめ方によって数字が微妙に食い違う部分がありますが、詳細に関心のある方は環境省のHPをご覧ください。

1、2020年版 国内衣類のマテリアルフロー

衣類の国内新規供給量は計81.9万トン(2020年)に対し、その約9割に相当する計78.7万トンが事業所及び家庭から使用後に手放されると推計。

・このうち、廃棄される量は計51.2万トン(手放される衣類の65%)、リサイクルされる量は計12.3万トン(同16%)、リユースされる量は計15.4万トン(同20%)

2020年度衣類のマテリアルフリー
2020年度衣類のマテリアルフローの詳細

量の単位が大きすぎて、今一つ具体的なイメージが湧きにくいかもしれませんが、廃棄量51.2万トンのうち、家庭から廃棄されるものが約48万トンです。これを平均すると、1日当たり大型トラック130台分の衣類が焼却・埋め立て処分されていることになります。膨大な量ですよね。

2、国内衣類のマテリアルフロー推移(2009年 / 2020年)

国内衣類のマテリアルフロー推移(2009年/2020年)

国内市場への衣類の供給量は2009年対比で2020年は約10%減少しています。これに伴い、手放される衣類の量は11万トン(約12%)減少しています。手放される衣類のなかで廃棄される量は約5%減少し、リサイクルされる量は約6%増加しています。リユースについては、コロナ禍の影響でバザーやフリーマーケットの開催が難しくなったこともあり、微減です。リペア(修理)される量は約13%の増加で大きく伸長しています。市場への供給量、廃棄量が減少し、リサイクルやリペアされる量が伸長しているということは、消費者の行動が環境負荷を低減する方向に向いていることを示しています。しかしまだまだその程度は十分とは言えないレベルです。

3、国内に供給されるファッション産業に関係する環境負荷

・CO2排出

国内に供給される衣類から排出されるCO2(原料調達から廃棄まで)は95百万トンと推計され、これは世界のファッション産業から排出されるCO2(2,106百万トン)の4.5%に相当する。このうち、原料調達から輸送までが全体の94.6%を占め、国内において排出されるCO2排出量は9.7百万トンで、日本の総排出量(1,213百万トン)の0.8%に相当する。

・水消費

国内に供給される衣類の生産に必要な水の量は83.8億m3と推計され、これは世界のファッション産業で消費される水の9.0%相当する。83.8億m3という水消費量は日本国内で消費される水利用の10.4%もの量に当たる。このうち原材料調達段階で使用されるものが91.6%を占める(綿の栽培における水消費量の割合は88.4%)。服を1着生産するのに必要な水は2,368リットル(!)と推計される。

4、ファッション産業と生物多様性の関連

・ファッション産業による生物多様性の損失等に係る一次データがなく定量的な把握は困難であった。

・ファッション産業は、生物多様性の損失に大きく関与しているとみられ、土壌の劣化、自然生態系の転換、水路の汚染に直接関係していると指摘されている。

レーヨンやモダールなどのセルロース生地は化石資源を原料とせず、マイクロプラスティックを発生させないため環境に優しいとされる反面、生産のために、毎年7千万から1億本の木が伐採されており、これらの木の3分の1は、インドネシアの高炭素熱帯雨林など絶滅危惧種の森林からのものと報告されている。

・洗濯により大量のマイクロファイバーが環境に放出され、そのほとんどが最終的に海に流れ込むと言われている。環境中のプラスティックの存在は、生態系と人間の健康に悪影響を与えると報告されている。

ファッション産業は環境負荷の高い産業だと言われていますが、上記はその事実をマクロ数値として示したものです。国内の事業所や家庭から使用後に手放されている衣類のうち、実に65%が廃棄(焼却及び焼却灰の埋め立て)されています。焼却されることでCO2を排出しますから、廃棄される衣類の一部をリサイクル、リユース、リペアに回せれば、それだけCO2の排出を削減できますし、新規の市場供給を減らす効果も期待できます。また日本で消費される衣類の約98%は輸入されています。ということは、消費(=廃棄)は国内ですが、生産による大きな環境負荷を生産国に発生させているということになります。

ファッション衣料のサステイナビリティを考えるときに大切なことは、

①手間をかけた良い製品を、できるだけ長く大切に使うこと

②無駄な製品を生産しないこと

③長く使える(素材、デザイン、縫製仕様)、環境に配慮した(素材、製造プロセス全体、流通)、良質な服を選ぶこと

④購入した服をできるだけ長く使うために、傷んだり、壊れた個所を修理するための材料や、修理できる場所(技術)を提供すること

といった基本的なことです。「衣類」はファッションであると同時に生活必需品でもあります。生産者(企業)と消費者が「環境に配慮する」という共通認識を持って行動できるようになれば、ファッション産業が生み出してしまう環境負荷を低減し、持続可能な産業として再生することができるはずです。

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