号外:世界でホットな地熱発電

日本列島は環太平洋火山帯の上に位置し、活発な活動を繰り返す火山も多く、各地に温泉も湧き出ています。しかしこれまで、地熱発電の話はあまり聞かなかったように思います。世界が、日本が脱炭素に向けて大きく方向を転換する中で、ようやく日本の地熱発電も注目されています。

2021年6月10日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

”脱炭素の流れを受け、世界で地熱発電が盛り上がっている。再生可能エネルギーの中でも、太陽光や風力のように天候に左右されない安定性が評価され、発電量は10年で4割増えた。世界3位の潜在量を持ちながら原子力優先で出遅れた日本も、政府が2030年に発電所を倍増させる方針を掲げ、にわかに活気づいてきた。”

地熱発電は地下から150度を超す蒸気や熱水を取り出してタービンを回し発電する。昼夜ほぼ一定の出力で発電でき、再生可能エネルギー電源の中で安定性は群を抜く。設備利用率は70%強と太陽光、風力の10~20%程度をはるかに上回る。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、2020年末の発電容量は1400万キロワットを超え、10年で約4割増えた。直近5年で伸びが著しいのがトルコだ。2000年代から政府系の地質調査所が資源量の調査を進め、国策として事業者の参入を促した。英BPなどによると、2010年時点で9万キロワットだった発電容量は2020年に154万キロワットへ急増した。

各国の地熱発電のシェア

”東アフリカのケニアでも、発電容量が119万キロワットと過去10年で6倍に増えた。国際エネルギー機関(IEA)統計などによると同国の発電容量の半分近くを占める。干ばつで発電量が安定しづらい水力発電の代替手段として地熱発電が盛んだ。

”地熱のエネルギー源は地下のマグマの熱で、資源量が多いのは環太平洋火山帯に位置する地域と、アフリカの一部地域やアイスランドなどとなっている。潜在する資源量は米国が3000万キロワットと首位に立ち、インドネシア、日本が続く。

地熱発電資源の分布図

世界3位の日本は潜在する資源量2340万キロワットに対し、実際の発電導入量は2020年時点で55万キロワットにとどまる。10年前からほぼ横ばいだ。米国やインドネシアが事業者への税制優遇や政府支援などで、2020年の導入量をそれぞれ2010年比12%増の370万キロワット、同92%増の228万キロワットまで伸ばしたのとは対照的だ。”

世界の国別地熱発電コスト

日本市場が低調な理由はいくつかある。まず、開発コストの高さが挙げられる。西日本技術開発(福岡市)が経済協力開発機構(OECD)の資料などで調べたところ、日本は地熱発電所を建設してから稼働を終えるまでに1キロワット時当たり税抜き10~18円の費用がかかる。これに対して米国は5~9円、ニュージーランドは3~5円と低い。山間部が多い日本は平地主体の海外と比べて工事費が膨らみがちだ。掘削技術や大型の重機をもつ企業も限られる。地熱開発は油田と同じで掘ってみないと正確な資源量が分からない。国内では資源量の調査から稼働まで、平均15年近くかかる。実際の成功率は3割程度といわれ、1本に5億円強かかる井戸を、当てるまでに複数、掘り続ける必要がある。こうした事業リスクを踏まえて長期投資できるような民間企業はごく一部に限られる。地熱開発には国の後押しが不可欠なのだ。

”国内ではオイルショックの起きた1970年代から地熱開発の機運が盛り上がったが、1990年代に入ると原発政策に押されて勢いを失った。これが2つ目の理由だ。出力1万キロワットを超す地熱発電所の新設は1996年稼働の滝上発電所(大分県九重町)を最後に冬の時代に突入。2019年の山葵沢発電所(秋田県湯沢市)まで23年間なかった。“

地熱発電用タービンのメーカー別シェア

”国内市場が低調な半面、日本企業の技術は世界で求められている。地熱発電用タービンでは、東芝や三菱重工業など日本勢の世界シェアが6割強に達する。東芝エネルギーシステムズによると、ここ数年でインドネシアや東アフリカからの引き合いが強まったという。同社は建設中の発電所を含めて米国やケニアなど11ヶ国でタービンを納入した。海外メーカーと比べて出力が低下しづらく、長期の使用にも耐えられる点が特徴だ。低い温度でも1000キロワットから発電できる小型地熱発電を商品化するなど、この分野では世界の先頭を走る。三菱重工も13ヶ国にタービンを納入し、特にアイスランドではシェアが55%に達している。同国は地熱発電所の温排水を利用した温泉リゾート「ブルーラグーン」で知られ、自国の電力を全て再生エネルギーでまかなう。三菱重工は地熱開発の初期段階で国営電力と取引が生まれ、その後の連続受注につながった。設備の設計や調達、建設まで一括で請け負う点も評価されている。”

”商社も海外企業とEPC(設計・調達・建設)契約を結び、海外でノウハウを蓄積している。豊田通商は現代エンジニアリングと共同で世界最大規模のケニア・オルカリア地熱発電所(最大出力28万キロワット)を受注した。伊藤忠商事と九州電力はインドネシア・サルーラ地区の地熱プロジェクトに開発段階から参加。2018年までに3基が稼働し、総出力は33万キロワットに上る。”

海外プロジェクト

脱炭素の流れを受け、日本でも地熱発電は見直されつつある。北海道では環境省が2015年に国立・国定公園の「第1種特別地域」の地下で、域外から斜めに穴を掘って開発できるよう規制を緩和し、企業の進出構想が相次ぐ。2022年に北海道函館市でオリックスが道内40年振りとなる大型地熱発電所を稼働。出光興産がINPEXと組んで北海道赤井川村で計画中の地熱発電所は、国内最大級の出力との観測もある。環境省は関係法令の運用見直しなどで、地熱発電の稼働にかかる時間を最短8年まで縮める方針も示している。技術もポテンシャルもある地熱発電開発を進める素地が整いつつある。

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