号外:温暖化、融ける北極圏!

グリーンランドは北大西洋と北極海の間にある、デンマーク自治領の巨大な島です。島のほとんどは氷で覆われていますが、その面積は日本国土の約6倍もあります。グリーンランドを含む北極圏では、他の地域に比べて急激に温暖化が進み、氷床が解けて陸地の露出が進んでいます。このため永久凍土に眠っていた埋蔵資源の争奪戦が起こったり、凍って閉じ込められていた温暖化ガスが放出されたり、感染症の病原菌が広がることで感染のリスクが高まることが懸念されています。北極圏で温暖化の負の局面が顕在化しているのですが、これは何も北極圏に限ったことではありません。

2021年6月24日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

北極圏が気候変動に揺れている。グリーンランドでは急激な気温の上昇が氷床をとかしたことで陸地が露出し、埋蔵資源の争いが過熱。大国間の安全保障問題に発展している。シベリアでは永久凍土から出た病原菌やガスによる被害が出始めた。北極圏は温暖化が他地域の2倍のペースで進む。気候変動がもたらす世界の未来図として、多くの示唆を与えている。”

氷床の融解が進むグリーンランド

グリーンランドは温暖化の影響により、2019年には氷床が解けた量が5320億トンに上り、観測史上最も多かった。このため、これまで氷に閉ざされてきた鉱床の探査が可能になった。ここに触手を伸ばしたのが中国企業だった。しかし4月の自治政府議会選挙において、環境保護を訴える政党が第1党となったことで、中国の戦略にはいったんストップがかかった。”

グリーンランドのレアアースの埋蔵量は世界最大級という。中国のレアアースの生産量は世界の6割を占める。各国の脱炭素戦略の要所を中国が握ることに各国は神経をとがらせる。ブリンケン米国務長官は5月20日にグリーンランドを訪問し関係強化を訴えた。北極航路の開拓には米欧ロがしのぎを削っている。

温暖化により、氷に封印されてきた有害な物質も姿を現し始めている。ロシアのシベリアでは隕石(いんせき)が衝突したような巨大な穴が突如出現する現象が相次ぐ。特に2020年5~6月に発生した穴は深さ約30メートル、直径25メートルにもなった。2021年2月、ロシアなどの研究者は永久凍土がとけたため地中のガスが噴き出した可能性を指摘した。凍土の下にはCO2やメタンガスが多く眠る。温暖化で有機物が温められ分解されると放出される。永久凍土は大気のほぼ2倍の炭素を含む。ガスがでると温暖化が進み、さらなる凍土の融解につながる。各国の削減努力を帳消しにする悪循環を生む。地球の気温情報を産業革命前の1.5度以内とするパリ協定の目標達成も危うくなる。”

シベリア西部では2016年、炭疽(たんそ)菌による住民の集団感染が起きた。研究者によると、同年に起こった熱波の後、永久凍土から姿を現したトナカイから病原菌が放出された。1918~19年に大流行し、世界中で数千万人の命を奪ったスペイン風邪の痕跡もアラスカから発見された。シベリアは近年異常な高温が続いている。北東部の町ベルホヤンスクで2020年6月、気温セ氏38度が観測された。シベリアの2020年1~6月の平均気温は、1981~20年の同期間の平均と比べて5度以上高かった。

”欧州などの国際研究グループは「気候変動の影響なしでは高温はほぼ起こり得なかった」とする研究結果を発表した。医学誌ランセットも2021年1月に「気候変動は多くの感染症のリスクを高め、人類の大きなリスクになりつつある」との懸念を示した。日本にも渡り鳥などを介して感染症が到達する可能性もある。北極圏で起きる異変を遠い極地の出来事として片付けることはできず、今まさにどう向き合いかが問われている。”

昨年来、世界は新型コロナウイルス感染症の蔓延に見舞われ、社会的、経済的そして人的に大きな被害を受けています。世界中でワクチン接種が進められていますが、まだまだこの感染症を克服するめどは立っていません。北極圏で起きていることは、温暖化の影響がさらに温暖化を加速する悪循環であり、氷に閉じ込められていた既知のあるいは未知の病原菌による感染症が蔓延するリスクが拡大する危機です。「日本にも渡り鳥などを介して感染症が到達する」となると、どうやって防げばいいのでしょうか。ここでも、はっきりしていることは地球温暖化を食い止めなければならないということです。今般のコロナ禍で、危機が世界規模で発生する可能性を世界の人々は再認識しました。今必要な対策を実施できれば、まだ手遅れではないことを信じて、世界は協力しなければなりません。そうすることは、私たち自身のためというだけではなく、将来の世代のための責任だと思います。

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