号外:生物資源のエネルギー利用、持続可能性に疑問符

脱炭素(CO2の排出削減)を実現するために、再生可能エネルギーとして生物資源(森林バイオマス等)をエネルギー源として利用することが広がっています。しかし、生物資源の利用拡大は、世界の食糧生産や生物多様性に対して深刻な二次的影響を及ぼすことが懸念されています。

2021年7月9日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事(英ファイナンシャル・タイムズ電子版)より、

樹木や作物がエネルギー源として利用される場面が増えれば、食料生産用の用地を奪ったり、動植物の多様性が失われたりする恐れがある。英気候変動委員会の元委員長、アデア・ターナー氏が議長を務めるシンクタンクのエネルギー移行委員会(ETC)はこう警鐘を鳴らす。”

”欧州連合(EU)は来週、「再生可能エネルギー」を分類する上での極めて重要なルールを公表する。それに先立ち、いわゆる生物資源を巡る議論が熱を帯びている。環境保護団体は、森林バイオマス(主に木質ペレット)を分類から除外するよう求めている。現段階でエネルギー供給全体の約10%を生物資源が占める。ETCは報告書で、この割合が拡大すれば、必然的に世界の食糧生産や生物多様性には深刻な二次的影響が及ぶと結論付けた。”

”ETCはさまざまな組織で構成されており、メンバーには石油メジャーの英BPや英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、英金融大手HSBCホールディングスや中国国務院のほか、国際機関が名を連ねる。一部のメンバー企業が生み出すクリーンな電気や水素など、代替エネルギー源の開発を提唱している。ターナー氏は、持続可能な形で栽培される樹木や作物は原則として再生可能だが、環境保護の観点からすると、すべての利用形態が「良い」とは言えないとみている。「(生物資源は)エネルギー供給全体のなかで小さな役割しか果たせない。数字を出してみても、持続可能な(生物資源の)総量は少ないだろうと思えるため、我々は脱炭素化の重要な部分を担わせることには極めて慎重だ」と同氏は強調する。”

樹木や作物由来の油をエネルギーに利用することはかねて賛否両論があり、科学者や環境活動家、農業や林業のロビー団体は環境への影響を巡り議論を重ねている。2月には、500人余りの科学者が欧州委員長と欧州理事会議長に宛てた書簡で、「化石燃料ではなく樹木を燃焼させるやり方への移行」に異議を唱えた。バイオ燃料の需要の高まりが過去に食料品価格の乱高下を招いたこともあった。悪天候により食品価格が急騰し、貧しい国々で暴動が起きた際は強い反発が巻き起こった。”

“だが、国や企業に温暖化ガスの排出削減を求める圧力が高まるなか、炭素排出が少ない代替燃料としてバイオマスの利用は飛躍的に増えている。ETCの報告書によると、例えば欧州では2000年以降、バイオマスによる発電量が5倍に増加し、輸送に使われるバイオ燃料の使用は25倍に膨らんだ。国際エネルギー機関(IEA)は、温暖化ガス排出に起因する世界の平均気温上昇を2050年に(産業革命前に比べて)1.5度以下に抑えるために、総エネルギー需要の20%はバイオエネルギーで賄われる可能性があると予測する。”

しかしETCは、樹木や作物をエネルギー生産に利用する必要性を減らすべく、クリーンな電気や水素を生み出す手法を含めて新たな技術の開発を急ぐように訴えている。現行の政府の政策はたいていの場合、代替手段が存在する分野で生物資源の利用を奨励しているという。報告書は、生物資源は建築資材やプラスティック原料、航空燃料としての利用が優先されるべきだと述べている。ターナー氏は「生物資源は(エネルギー供給)システムのごく一部であるべきだ」とくぎを刺した。”

世界は脱炭素に向けて膨大なエネルギー消費の代替方法を模索しています。生物資源(バイオマス)はひとつの選択肢ではありますが、「持続可能な形で栽培される樹木や作物は原則として再生可能」ですが、それは無尽蔵に入手可能というわけではありません。限度を超えてしまえば、食料生産や生物多様性に悪影響を与えることは容易に想像がつきます。既存技術の応用で実現可能な安易な方法に偏ることは厳に慎まなくてはなりません。依然として技術的なハードルが高い選択肢もありますが、代替エネルギー源については効率だけではなく、地球環境や人々の生活への影響のバランスに配慮した組み合わせを考えていかねばなりません。

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