自然の素材を履く、広がるスニーカーの脱炭素
先般このHPでもオールバーズ(allbirds)について紹介しましたが、今回はその追加情報と、スニーカー関連の環境配慮についての話題です。
<allbirds、靴にも脱炭素の波、「緑の消費者」が生む新市場>の項を参照
2021年8月29日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
”始まりはプロサッカー選手の違和感だった。ニュージーランド代表の主将、ティム・ブラウンにはスポーツメーカーから頻繁に靴が届いた。「こちらは新商品、こちらは新しいカラーリングです」。ブラウンはたくさんの靴がほしいわけではない。派手な見た目もいらない。履きたい靴を自分でデザインするようになった変わり種の選手は、引退後の2016年に起業する。このほど東京・丸の内にも出店したスニーカーメーカー、オールバーズ(allbirds)である。”
”店内の壁に、丸みを帯びたデザインのスニーカーが並ぶ。アッパー(足の甲)にニュージーランド産の羊毛や、栽培時にCO2を吸収しやすいユーカリの繊維を使うなど、自然の素材でつくる。靴が飾られている壁には小さな数字。商品の製造から廃棄までに排出する温暖化ガスの量である。石油からできた素材を廃止、CO2の排出を減らすのがオールバーズの靴づくりだ。石油由来の素材はすごく便利で供給が安定していて安い。機能的にも伸縮性や耐久性があって使いやすい。それでも、地球環境を守るために石油をなるべく使わないことがオールバーズの出発点であり、ビジネスの核だという。”
”多くの部位からできている靴は脱炭素が難しい商品で、特にスニーカーには難題があった。約100年前、靴の底にゴムを貼って歩きやすくしたことがスニーカーの始まりとされる。その名も英語の「sneak」(忍び寄る)から来ている。靴底はその後、アスリートの激しい動きに耐えられるように石油由来の素材に置き換わっていった。年月を掛けて進化してきたものだけに代わりはなかなか見つからない。”
”それなら自分たちで素材を作ろう。ブラウンらが着目したのが、CO2を吸収しやすいサトウキビだった。ブラジルの農家と手を組んで製造法を開発。従来の靴底の素材は1トンを製造する際にCO2換算の温暖化ガスを2.8トン排出していたが、新素材は逆に1.2トン吸収するという。商品の輸送にもエネルギー効率のいい海上輸送を活用。その燃料には再生エネルギーを使う。一般的なスニーカー1足が製造から廃棄までに出す温暖化ガスは平均12.5キログラム。オールバーズは現在でも7.6キログラムと少ないが、2030年には1キログラム未満、将来的には「カーボンネガティブ」(吸収超過の状態)にする目標を立てる。”
”環境に配慮している分、費用はかさむ。「原価10ドルで似たようなスニーカーをつくることはできるかもしれない。サステイナブルにすることで確かに費用は上がる。でも、そのお金と人類が将来払う代償を比べたらどちらが高いか」。その理念は市場の評価を集め、創設5年で2億ドル(約220億円)の出資を受けた。温暖化対策を社会全体で進めるため、技術も他社と共有する。ブラウンがかつて違和感を抱いていた、スポーツメーカーも巻き込んでいる。独アディダスと共同開発したスニーカーをこの秋、数量限定で発売する。同社が開発した軽くて反発力の高い靴底を、オールバーズのサトウキビ由来の素材で改良。温顔化ガスの排出量は両社の製品で最も少ない2.94キログラムとなる。”
”持続可能性は現在、スニーカーの大きなテーマになっている。独プーマや日本のアシックスなど大手スポーツメーカーは環境に配慮した商品を投入。米ナイキは「スポーツの未来を守るためにCO2排出量と廃棄物ゼロにフォーカスしている」と説明する。オールバーズのような新規参入も増加している。”
”日本でもサステイナブルをテーマにした靴づくりが始まった。木製の棚に丸みを帯びたスニーカーが並んでいる。兵庫県西宮市に店を構える「オッフェン」。今年誕生した靴のブランドだ。アッパーはペットボトルを再利用して作った糸でつくる。中敷きには3~5年で自然に分解される素材を使う。シューキーパーもトウモロコシなどの植物由来だ。靴は通常、30種類くらいのパーツを組み合わせるが、オッフェンはアッパー用の布の形を工夫するなどしてその数を半分に削減。廃棄物を減らしている。”
”プロデューサーの日坂さとみは以前、アパレル会社に勤めていた。中国の生産工場を訪れた時のことが忘れられないという。壁は穴だらけ。裁断で生じたゴミであふれ粉塵が舞う。「商品がこういうところで作られているんだって。衝撃的だった」。出産、子育てを経て、環境への関心はさらに高まった。靴のブランドを立ち上げることにした時、サステイナブルを中心に据えることにした。「靴は毎日欠かせないし、これからも消えることのないアイテム。地球との共存をきちんと考えた物作りを追求していきたかった」。”
”現在は西宮の本店のほか、関東などで期間限定の店舗を開く。客の80%が再購入するほど評判は上々だ。ただ、顧客はお堅い理念に共感してやってくるわけではない。「気難しく『環境がこうだ』と言ってもダメ。ファッションが好きな人はかわいくないと履いてくれない。ファッション好きの人が物作りの背景を知る第一歩になってくれたらというのが、オッフェンを立ち上げた狙いだった」。今のところ、その目標通りに進んでいる。”
”誕生以来、履き心地やデザインで多くの人を魅了し、個性や自由の象徴にもなったスニーカー。そして今、履く人は持続可能性や気候変動といった重いテーマにも足を踏み入れることができるようになった。肩肘張ったやり方ではなく、スニーカーらしい、軽やかな足取りで。”