ベトナムの感染拡大で、アパレルの秋冬物発売に遅れ

日本の国内市場に供給される衣料品の約98%は輸入品です。輸入元の国別では、縫製だけでなく素材調達も可能な中国が半分以上を占め、依然として最大ですが、第2位はベトナムです。ベトナムでの縫製はここ10年間で大きく伸長しました。そのベトナムで、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で秋冬物衣料の生産に遅れが生じ、店頭販売に間に合わない事態に陥っています。コロナ禍によるサプライチェーンの目詰まりは衣料品に限ったことではなく、自動車や家電製品でも大きな影響がでています。しかし元々シーズン性がある衣料品では、調達遅れによる販売機会の喪失はアパレル企業の業績に大きなダメージを与える懸念があります。ベトナムでは「工場隔離」という、工場労働者を工場内に隔離(食事や宿泊などすべてを工場内で行い、工場敷地外に出ない)する方法で、一部の生産を継続している工場もありますが、経済活動全般が停滞し職を失った出稼ぎ労働者が帰郷しているため、経済活動(生産)再開といっても、すぐに人手を確保することは難しいと言われています。

2021年10月18日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

”日本のアパレル企業で秋冬物の新商品の発売が遅れている。新型コロナウイルスの影響で衣料品を生産するベトナム工場の稼働が落ち、思うように調達できていないためだ。百貨店アパレル大手の三陽商会とライトオンなどは一部商品の発売が最大2ヶ月遅れる。緊急事態宣言の解除で経済が再開に向かうなか、国内の個人消費に水を差す可能性もある。“

ベトナムの縫製工場

三陽商会はベトナム工場で生産する秋冬商品の約3割の出荷ができていない。出荷は順次再開しているが、発売は1~2ヶ月程度遅れる見通しで、秋冬商品を本格的に売り出す10月下旬に間に合わない。ワークマン、しまむら、TSIホールディングス、ライトオン、ユニクロなどでも同様な状況が発生している。”

ベトナムから日本への衣料品輸入推移

アパレル各社は中国の賃金上昇や米中の貿易摩擦を受けて、ベトナムなど東南アジアへの生産地の分散を進めてきた。貿易統計によると、ベトナムからの衣料品輸入額は2020年に4219億円と10年間で4倍に増加。縫製技術が高い拠点として重要性が高まり、中国に次ぐ生産拠点になった。ベトナムの生産比率は三陽商会やワークマンは全体の約5%だが、品質の高さが求められる商品を生産している。ベトナムでは連日1万人を超えるコロナの新規感染者が出ていた。足元ではピークを越えたとみられ、ロックダウン(都市封鎖)緩和の動きが出てきた。しかし、労働集約型の縫製業では感染懸念を背景に従業員が十分に戻っていない現場もあり、生産が正常化するにはまだ時間がかかりそうだという。

”このため、アパレル各社は代替生産の検討に入った。三陽商会はトレンチコートなど代替生産が可能な商品は日本国内に振り返る。TSIは大幅に遅れる商品の生産を中国で補う方針だ。しまむらは肌着の生産を中国に振り替えた。ただベトナム工場から生地などの原料を送れないため、代替できる量は一部に限られる。日本や中国は人件費が高く、代替生産でコストも圧迫する。

日本の衣類輸入先(国別)

”発売時期の大幅な遅れはアパレル各社の業績に影響を与える可能性がある。秋冬物は春夏物に比べ単価が高く採算が良いが、12月からセールが始まるため定価販売できなくなる恐れがある。三陽商会は遅れる商品の一部は次のシーズンまで先延ばしをする方針だ。「最も稼ぐ時期に商品がないのは痛手だ」とアパレル関係者は話している。”

海外のアパレル大手にも影響が出ている。米ナイキは決算説明会でコロナ禍による供給網の混乱が長引き、年末商戦に悪影響が出るとの見通しを示した。ベトナムにある委託工場はデルタ型流行の影響で生産を一時中止。10月に生産再開するが、フル稼働にはさらに数か月かかるとしている。独アディダスもベトナムを含むサプライチェーンの混乱などで、年末商戦などに影響が出る見通しを明らかにした。”

日本国内では、緊急事態宣言の全面解除に伴い、アパレル各社は衣料品販売の復調を期待していた。伊勢丹新宿本店(東京・新宿)では10月1週目の売り上げが前年同月比で1割上回るなど兆しが出ていただけに、秋冬物の品不足が消費回復にも水を差しかねない。”

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