生分解と繊維:焼却する廃衣料を削減するには

さて焼却される廃衣料を削減したいのですが、どのような方法があるでしょうか。

初回にデータを引用したように、日本では年間200万トンあまりの繊維製品が市場に供給されています。内訳としては天然繊維が80万トン、化合繊が120万トン程度です。全体のうち、衣料品として供給されているのは110万トン程度です。

合繊のケミカル・リサイクルについては既に触れました。色々とハードルはありますが、技術的には可能です。上手にシステム構築し安定的に稼働して、経済的な課題を克服できれば、使用後の合繊を資源循環のループに組み込むことができます。これを一定規模で実現するためには、合繊メーカー、アパレル企業、流通企業、消費者・使用者が密接に連携しなければなりません。

ここではもうひとつの可能性について考えてみます。

自然の有機物、例えば落ち葉は微生物によって徐々に分解されます。微生物は分解した有機物を体内に取り込んで栄養素とし、増殖します。この作用を代謝といいます。自然の有機物は微生物に代謝されることによってCO2と水に分解されます。この一連の過程が生分解です。人間の役に立つ微生物の活動を発酵といます。味噌や醤油、お酒類も微生物の発酵を利用しています。一方で人間に役に立たないものを腐敗と呼んでいます。ちょっと身勝手な区分かもしれません。酸素が供給される環境での発酵を好気性発酵といいCO2が発生します。酸素が供給されない環境ではメタンガスが発生し、嫌気性発酵と言われています。微生物は好気性生分解の過程で、有機物が持つ炭素元の40%から50%をその体内に固定すること言われています。有機物を焼却すれば、その有機物が持っている炭素元のほぼ100%がCO2となって排出されますが、生分解すればCO2の排出量は60%程度まで低減されることになります。

生分解プラスティックのイメージ

廃衣料を生分解できれば、焼却する廃棄物を削減し、焼却と比較した場合には排出するCO2を削減できます。資源循環というわけではありませんが、ほとんどを焼却している現状に比べれば環境に配慮した(サステイナビリティを考慮した)廃棄処理とすることができます。しかしここにもたくさんのハードルがあります。

綿、ウール、絹といった天然繊維は自然の有機物ですから生分解されます。これに対して衣料品によく使用されているポリエステルのような合成有機物(プラスティック)は、非常に安定しているために微生物によってはほとんど分解されません。衣料品がやっかいなところは、自然有機物と合成有機物が組み合わされて使われているところです。綿とポリエステルの混紡生地は、綿部分は生分解したとしても、ポリエステル部分は残りますから、生地としては生分解には適さないものになります。衣料品に使用される樹脂や金属の服飾資材(ボタンやファスナー等)も生分解しませんから、分別する必要があります。また生分解処理の場合も、リサイクルと同様に回収システムの構築が必要です。

生分解の主役は微生物です。しかし微生物は目に見えません。皆さんは私たちの周りにどのくらいの微生物が存在するかご存知でしょうか。ヒトの皮膚の表面には1平方センチあたり10万個以上の微生物が付着しています。ふん便には1g中に100億個から1000億個の微生物が含まれます。ふん便は消化されなかった食べ物のかすのように思われますが、実に総量の3割から5割は微生物であるといわれています。(東北大学大学院農学研究科先端農学センターの資料より)私たちの周りには、目に見えないだけで実に膨大な数の微生物が存在しています。これだけたくさんの微生物が私たちの周りに存在するのですが、生分解は非常にゆっくりと進行する現象です。私たちが「処理」と言うと、「何時間かかる処理ですか?」というような話になるのですが、自然界で進行する現象は人間のようにせっかちではありません。このあたりも考慮しなければならない点です。

廃プラスティックの問題は、マイクロプラスティックの海洋汚染だけではありません。ペットボトル以外の一般的なプラスティック成形品で、「家電製品リサイクル法」や「自動車リサイクル法」等の対象でなければ、ほとんどが回収されずに焼却されています。また観光地等でポイ捨てされたプラスティック容器なども、清掃・回収されなければ長期間残存することになります。これらの問題を少しでも改善するために、生分解するプラスティックが開発されています。生分解性プラスティックの難しいところは、分解が早いものは物性が弱く、物性が強いものは分解しにくくなるというところです。生分解性が高いプラスティックは強度や耐熱性といった物性が弱く、実際に使用できる用途が極めて限定されます。実使用できる耐久性を備えた生分解プラスティックは、それだけ安定しているということで、いざ生分解させようとするとかなりの時間がかかります(生分解性が低い)。衣料品はある種の耐久消費財ですから、生分解プラスティックを衣料用繊維として使用する場合には、細く(柔らかく)しかも必要な強度を維持するように加工(糸にすること)しなければなりません。これは相当に難易度が高い開発テーマです。

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