ロンハーマンの挑戦、世界2位の環境汚染産業からの脱却へ

アパレル業界、アパレル企業がサステイナブルに事業構造を転換しようとする場合、アプローチの方法はさまざまだと思います。世に言われているようなことすべてを取り込んで実行しようとすると、ビジネスとして行き詰ってしまうことが懸念されます。それぞれの企業が、それぞれの事業状況を踏まえて、まずはできることから少しずつ、しかし着実に実行し、そしてそれを継続することで対応できる領域を広げていくことが必要だと思います。下記は、「ロンハーマン」がサステイナブルに事業構造を転換しようとしている取り組みを紹介しています。

2021年7月7日付けSustainable Brands Japanに掲載された記事より、

ロンハーマン

“華やかな表舞台とは裏腹に、環境問題や人権問題で厳しい目を向けられるアパレル業界。コロナ禍で消費者の意識も大きく変わる中、アパレル業界自体も危機感を持って動き出した。米ロサンゼルス発のセレクトショップで、2019年からサザビーリーグが事業譲渡を受け国内外で展開するファッションブランド「ロンハーマン」は2021年5月末、サプライヤーを巻き込んで、脱炭素、セール廃止による余剰在庫削減、サプライチェーンの透明化を進めることを発表した。”

近年、安くておしゃれな服が手軽に買えるようになった一方で、一枚の洋服のライフサイクルはどんどん短くなっている。環境省によると、日本人1人が1年間に購入する衣服は18枚。逆に手放す服は12枚で、さらに着られずクローゼットに眠る服は25枚に上るという。ファッションの短サイクル化や低価格化で、アパレルは以前にも増して大量生産・大量消費になっている。

”国連貿易開発会議(UNCTAD)もアパレル業界が「世界2位の環境汚染産業」というレポートを出している。洋服1枚の生産には浴槽11杯分の水を必要とする。UNCTADによると、その水の量の合計は年間500万人のニーズを満たすのに十分な量に相当するという。さらに、炭素排出量でみても、国際航空業界と海運業界を足したものよりも多い量のCO2を排出している。コットンの生産から紡績、染色、縫製、輸送とサプライチェーンが非常に長く、コントロールが難しいのも特徴だ。”

”2019年8月、ロンハーマン事業は日本展開から10年の節目の年を迎え、次の10年にどう進化していくのか社内で議論を重ねていた。アパレル業界の環境負荷について学び始めた当初は、ファッション業界として何をしたら良いのかというところに意識が向いていた。しかし学び続けるうちに、生物多様性もエネルギー、農業もすべてのことが繋がっていることが理解されたという。アパレルやファッションというように個別に見るのではなく、自分たちの考え方や、動き方そのものを幅広く変える必要があることに気づかされたのだ。”

ロンハーマンの店舗(神戸市)

”2021年5月には「ロンハーマンサステイナビリティ・ビジョン」を発表した。環境、コミュニティ(地域社会)、顧客、従業員の4つの領域にフォーカスして、持続可能な事業に取り組んでいく。環境面では、温室効果ガス、余剰在庫、素材・資材を主な軸として取り組む。特に温室効果ガスは、2030年までにロンハーマン事業で直接排出されるCO2排出量(スコープ1および2)を実質ゼロにすることを目指す。省エネによる電気使用量の削減に加え、事務所・店舗の電力を再生可能エネルギーに転換する。また、事業から間接的に排出されるスコープ3についても、オリジナル商品の生産工場、仕入ブランド、商品配送と協力して可能な限り削減することを目指す。

サプライチェーンの透明性確保にも取り組む。ロンハーマン事業のサプライチェーン内の人権、労働環境、アニマルウェルフェアに関する状況を把握し、取引先と共同で改善に努める。新疆ウイグル自治区の強制労働問題が顕在化してから、中国原産の綿を使用する場合はベターコットンイニシアティブ(Better Cotton Initiative、BCI)コットンを使用している糸メーカーに切り替えた。BCIコットンは綿花を摘む農家の人々への公正な労働条件と待遇を保証するプログラムだ。”

”綿糸には産地と紡績地があり、仕入れの段階では実際の産地と違う地名が記載されていることも多く、すべての履歴を把握することが非常に難しい。しかし、ロンハーマンとして強制労働で生産された原材料を使うことはできないので、BCIコットンを使用することで、問題となっているような人権侵害に加担しない体制を整えた。さらにトレーサビリティを高めるため、繊維専門商社の豊島から「農場と紡績工場の特定」ができる、トルコ産のオーガニックコットンを調達する。これは海外デザイナーとのコラボレーションによる新プロジェクト商品で使用する。”

また、大量廃棄の原因となる余剰在庫を抱えるビジネスモデルの転換を図るため、2023年までにセール廃止も目指す。アパレル業界では、平時は適正な価格、セール時は安くすることで売上高を上げるという習慣がある。本来、シーズン中に商品がきちんと売れ、セール時に在庫がないのが「望ましい姿」だ。それが、セール時に展開できる在庫があれば、もっと売り上げが上がったという、おかしな理屈にすり替わってしまう。そうした風潮が加速したことにより、今では業界全体がセール頼みになってしまっている。しかしコロナ禍では一転して、過剰な在庫は重荷になることが顕在化した。また過剰在庫を減らすことで、資源や温室効果ガスの削減にもつながる。

”ビジョンの策定に向けて、ロンハーマンはコロナ禍以前からサプライヤーや、店舗が入居するビルのデベロッパーやオーナーと対話を続けてきた。しかし、当初はサステイナビリティについてなかなか聞いてくれるところがなかったという。中には、もともと課題意識をもって取り組んでいるところもあったが、多くは「どうやったらいいのか教えて欲しい」と受け身だったという。それがコロナ禍によって大きく変わった。”

”1年前、ロンハーマンは、あるコレクションを発表しているラグジュアリーブランドに、社会・環境に配慮した取り組みができないかという提案をした。しかしその時には積極的な反応は得られなかった。ところがコロナ禍となり、半年後に、ニューヨークで行う展示会の打合せをした時には、先方から「サステイナビリティにも取り組みたい」と逆に話を持ちかけられた。そのブランドは、今回のコレクションから、コットンはすべてオーガニックコットンにし、リサイクル可能な素材は100%リサイクルにと、環境に対する姿勢をきちんと見せていくという方針だ。半年前は全くそんな話をしていなかったのに、コロナ禍になって一段ギアが上がり、急に動き始めた印象だ。”

”また、再生可能エネルギーの導入に向けて、ビルオーナーやデベロッパーにも、1年半にわたってアプローチを続けている。以前は話が進まなかったが、最近ではむしろ相手から話を聞きたいと言われるようになった。コロナ禍は、それ以前から社会にも環境にも配慮したビジネスを目指し、準備をしていた企業にとってはむしろ変化の追い風になっている。ロンハーマンはコロナ禍前からサプライヤーや取引先に粘り強くアプローチを続けてきている。そして今、それまで訴えてきたことが相手にも届きはじめた。アパレル業界全体としても、さまざまな企業が変革に向けたメッセージを発信し始めている。世界に張り巡らされたサプライチェーン網を巻き込み、アパレル業界が変わろうという大きな「うねり」の一端が着実に現れはじめている。”

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