号外:「使い捨てカイロ」の開発秘話
12月になってずいぶん冷え込んできました。この時期になると「使い捨てカイロ」をご利用になる方も多いのではないかと思います。お出かけ(通勤、通学)や、散歩、キャンプ、ゴルフなど屋外でのレジャーなどで、とても重宝する製品です。「使い捨て」という語感に少し抵抗がありますが、やせ我慢して風邪でも引いたら大変ですよね。
2021年11月14日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“寒くなり手足がかじかむ季節になった。手軽で安全なうえ、すぐに体を温めてくれる使い捨てカイロは貴重な存在だろう。今では当たり前のように店頭に並ぶが、冬場の必需品を開発したのは日本企業の研究チームだ。世界で年間17億枚を売り上げるまでに育った製品は、1970年代の研究チームによる試行錯誤の結果だ。”
”「ヒントになったのは米軍が使っていたフットウォーマーでした」。日本初の使い捨てカイロは旭化成工業(現・旭化成)が開発した「アッタカサン」とされる。きっかけは1972年、火薬事業部の社員が米国からフットウォーマーを持ち帰ったことだった。何が含まれているのか、どんな原理で発熱するのかと分析を進めると、鉄が酸化する際に発する熱を利用することは分かったが、詳しい仕組みの解明には苦労したという。ある日の実験で、ビーカーに鉄紛と水を入れて混ぜてみたものの、なかなか発熱しない。しかし、しばらくして思わぬ現象が起きた。ふと見ると、鉄粉が浮かび上がり、水面から湯気が上がっていた。「鉄、水、酸素の3要素がそろって初めて発熱するのか」。発熱の原理を突き止めた。フットウォーマーの仕組みを調べる仕事は、使い捨てカイロを発明するという仕事に変わった。”
”製品化への課題が山積するなか、掲げた目標は5つだ。①火を使わない②ハンディーで汚れない③適正温度を長時間保つ④使い捨てで、手ごろな価格⑤いつでもどこでも使える。研究チームは、空気に触れる量を調節して発熱温度や保温時間のデータを収集したり、試作を繰り返したりした。最終的に鉄粉と保水材を分け、使用時に仕切を抜いて発熱させる構造で試験的に売り出したのは1974年ごろ。主に鍼灸(しんきゅう)師や医師らが対象だったが、当時の価格で1個300円と安くはなかったにもかかわらず、評判は口コミで広がり、俳優らにも重宝されたという。“
”後に登場したのが、1978年発売のロッテ電子工業(現・ロッテ)の「ホカロン」だ。1個100円とアッタカサンの3分の1の価格も後押しし、幅広い世代の支持を集めた。1981年7月の業界紙によると、使い捨てカイロ市場は150億~200億円規模に急拡大したという。ゴルフなどレジャー人気の高まりもあった。”
”使い捨て以外に目を向けると、カイロの歴史はさらに古い。例えば江戸時代の「温石(おんじゃく)」。人々は意思を火鉢や沸かした湯で熱し、布で巻くなどして使っていたという。暖を取ったり、患部に当てて痛みを和らげたりするだけでなく、空腹を和らげる効果も期待された。懐石料理の由来も「温石を懐に入れる程度に腹を満たす」こととされる。明治時代に出たのが、麻殻や炭粉を容器の中で燃やす「懐炉灰(かいろは)」。大正から昭和に入ると、ベンジンを燃料にするカイロが使われた。”
”1970年代に誕生した「使い捨て」は鉄粉の化学反応を利用する仕組みが画期的だった。「火のないカイロ」としてヒット商品に育ち、現在では貼るタイプや靴底に敷くタイプなど様々な種類も開発されている。次世代のカイロはどんなものになるのだろうか。メーカー15社が加盟する日本カイロ工業会に尋ねると、「課題はあるが、リサイクルできるカイロを考えていきたい」とのこと。SDG’s(持続可能な開発目標)が重視されるなか、ベンジン式も復活しつつある。燃料さえ入れれば、半永久的に使えることなどから若者らに好評という。時代ごとに形を変えながら、人々の体を温めてきたカイロ。資源を大切にし、人々に愛される新たな商品が生まれることを期待したい。”