本場欧州の服飾業界で活躍する日本人の「職人」①
ファッションの本場、欧州で活躍する日本人の「職人」を取り上げた話題です。ここに登場するみなさんは、色々とご苦労もあるのだと思いますが、それぞれの夢を本場の欧州で実現されています。日本のファッション業界は、コロナ禍もあり、なかなか景気のいい話は聞こえてきませんが、夢を追い続ける職人のみなさんには元気を分けていただけるような気がします。
2022年1月30日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
”服飾品の世界で日本人が相次ぎフランスの職人の頂点に輝いた。MOF(Meilleurs Ouvriers de France = フランス国家最優秀職人章)。料理や木工大工など約200の分野でコンクールを催し、勝ち残った職人を表彰する。著名シェフの故ジョエル・ロブションさんなどが有名だ。現在約9000人のMOFがいるが、2015年にかばん、2019年に帽子でそれぞれ初の日本人MOFが誕生。一般社団法人MOF MUSEUM NAGOYA(名古屋市)の山本孝彦理事によると、日本人のMOFは楽器や料理など合わせて5人になった。”
”「全人類に帽子をかぶらせたい」。そんな「人類帽子化計画」を掲げる日爪ノブキさん(42)は2019年に帽子部門のMOFとなり、独自ブランド「ヒヅメ」を同年立ち上げ独立した。帽子の現役MOFは10人程度しかいないという。建築家エッフェルがパリ11区で手掛けた建物内に30平方メートルの工房を構え、オーダーメードと既製品の帽子だけでなく、著名ブランドがファッションショーで使う帽子の製作も請け負う。”
”オーダーメードは人気の中折れ帽で2500ユーロ(約32万5000円)から。「チップ」と呼ばれる麻を織った素材で、帽子の形状を決める木型の、さらに原型を製作することもある。納期は半年程度。パリで直接注文を取るほか、日本からは、アシスタントや本人に採寸してもらい、Zoomで注文を受けることもある。顧客は日本人と外国人が半々。フランスの有名ストリートアーティスト、シリル・コンゴさんも顧客だ。”
”「最高のクリエーターは最高の職人」と信じ、デザインから製品を作り上げるところまで一貫して手掛ける。大学在籍中に文化服装学院(東京・渋谷)に入学。2005年に米ブロードウェーミュージカルの日本公演でヘッドピース(頭飾り)の製作を請け負い、好評を博したことから帽子づくりに開眼した。文化庁の新進芸術家海外研修制度を利用しフランスで研修を積んだ後、MOF帽子部門の重鎮マリークレール・バルボさんの工房「シェリービビ」で研修するチャンスをつかんだ。”
”研修後も社員として残ってほしいといわれたが、外国人排斥の流れが強まった時期で裁判所から帰国命令がでた。日爪さんにしかできない高度な技術を要する帽子を依頼していた「エルメス」などの口添えで覆り、無事入社に至ったという。MOF帽子部門は4年に1回の開催で、ビビ在籍中に応募。最期に残った5~6人の候補者で6個の帽子の製作を競った。バルボンさんが引退した2019年にMOFを獲得したのを機に独立することにした。「世界中の人がアクセスする場所」というパリに会社を設立。現在は2月の発表に向け、大手ブランドとコラボした作品を製作中だ。「MOFの技術を継承するため、いずれは弟子を育てたい」と意欲をみせる。”
”2015年にかばん部門でMOFに輝いたのは細井聡さん(42)だ。2006年にエルメスに入社。一般工房を経て2009年には重要な新作のマスターサンプルを手掛ける部門で働いた。力試しえ応募したMOFでは、9か月かけて作ったかばんを評価された。MOF獲得を機に高級ブランド最大手LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン傘下のバッグブランド「モワナ」に転職。念願のデザイナーとして4年間働いたが、「理想のバッグを作るにはデザイン、型紙、縫製の全工程を自分で手掛ける必要がある」と2020年に独立。自身のブランド「ホソイ―パリ」を立ち上げた。”
”工房があるのは19世紀に造られたパリ市内の建物。「フランスの街並みや季節を感じながらフランスで培ったものを表現したい」とパリ発信にこだわった。紳士向けが中心で、人気のトートバッグは上部を畳むとボストンバッグに変形するデザインが特徴。価格は約97万円だ。色や素材の希望に応じるがデザインの変更はしないのがポリシーという。金具一つまで自作するなど細部にこだわり抜く。パリで注文を受けるほか、日本では2021年5月に初めて東京都内でトランクショーを開催。インスタグラムや公式サイトでしか告知しなかったが、3日間の予約枠はすぐに埋まり、いまも製作に追われる。”
*トランクショー:特定のブランドがわずかな荷物(トランクに入る程度の)を持って百貨店などの会場を訪れ、そこで開催される「展示・受注会」のような催し。