号外:人と自然の壊れた関係、新たな動物由来感染症の発生

下記は、2020年のWWF(World Wildlife Fund、世界自然保護基金)の報告からの抜粋です。人間による自然環境破壊が新たな動物由来感染症を発生させています。新型コロナウイルス感染症の蔓延による社会・経済活動の停滞は3年目に入りました。私たち人間はこれまでの自然環境との接し方を反省し、これからの共生の道を考えていかねばならないと思います。

過去数十年に渡り、人が自然環境への侵入を加速したことで、人、家畜と野生生物が接触する機会が拡大した。その結果、動物に由来し人に感染する「動物由来感染症」の発生頻度と数が急激に増加した。毎年約3~4の新たな動物由来感染症が発生している。これらの感染症は、HIV/AIDS(エイズ)、SARS(重症急性呼吸器症候群)や直近の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような命にかかわるパンデミックを引き起こし、人の健康に甚大な影響をおよぼしている。”

”新たな動物由来感染症発生の増加は、世界的にまん延する2つの環境リスクと結びついている。

・持続可能でない食料システムが引き金となって、農業利用を目的とした大規模な土地利用転換がおきている。世界中の森林や自然環境が破壊・分断されることにより、野生生物と家畜、そして人が接触する機会を増やしている。この問題は人口増加と食習慣の変化によって悪化の一途をたどっている。

ハイリスクな野生生物の取引や消費の継続など不十分な食品安全管理が、人が動物の病原体と接触する機会を増やしている。衛生管理の行き届いていないハイリスクな手法での調達、加工および製造を通じた感染症への接触の可能性が増えている。”

将来新たな動物由来感染症が発生するリスクはいつになく高まっている。新型コロナウイルス感染症の危機は世界的なパンデミックがどれだけ破壊的な損害をもたらすかを示している。2019年12月から2020年10月にかけて200ヶ国以上で確認された新型コロナウイルス感染症関連の死者数は120万人に達し、経済的な影響としては2.4~8.8兆米ドルの経済損失と推定されている。世界の労働者の多くが生計手段を失う危機に瀕しており、特に社会的弱者である女性や先住民族のコミュニティが非常に大きな社会・経済的影響を受けている。また、新型コロナウイルス感染症による急激な変化は世界の食糧確保にも脅威となっており、深刻な飢餓に直面する可能性のある人口が膨れ上がっていると警告されている。これらの悲惨な代償に加え、パンデミックのリスクを高めている要因は、自然環境の喪失や気候変動といった地球規模の非常事態を引き起こしながら、現代と将来世代の健康を危機にさらしている。

”新型コロナウイルス感染症がもたらした危機は、パンデミックの引き金となっている環境問題を解決するために、社会システムの変革が必要であることを示している。今日に至るまで、森林破壊や土地利用転換の問題に対処し食料システムの持続可能性向上を目指す取り組み、およびハイリスクな野生生物の取引や消費に対する取り組みは、少しずつ前進してきた。しかし、多くの企業はコミットメントの達成に失敗し、政府の中には一向に対策を講じないか、十分な法執行の強化を行ってこなかったところもある。この危機は同時に、いくつかの国で危機対処のために数十万にのぼる人々がボランティア活動を行うなど、国際的な対応力が社会システムの変革の推進力になることも証明した。今はまさに環境にかかっている非持続可能な重圧を協力して緩和する機会である。

将来のパンデミックのリスクを抑え、生物多様性の回復を目指し、カーボンニュートラルかつ持続可能で公正な社会を構築するために、今こそ自然生態系を守る革新的な行動をとらねばならない。危機への一体的な対応として次のような取り組みを実施し、自然を保護していく必要がある。

・すべての人と地球に利益がもたらされるように、自然を回復軌道に乗せるべく、生物多様性の喪失を阻止し回復させる実効性のある行動をとる。

・違法または規制が不十分でハイリスクな野生動物の取引と消費を阻止し、市場や飲食店における衛生的かつ安全な管理を徹底する。

自然生態系の土地利用転換、森林破壊および分断を阻止すると同時に、今後増加する世界人口を考慮した持続可能な食料確保を達成する。

・持続可能かつ公正な経済回復を通じて人と自然の新たな関係を構築する。

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