号外:原発「最大限活用」、参院選公約での各党の主張

地球温暖化対策として脱炭素を進める際に、再生可能エネルギーの利用拡大もちろんのことですが、CO2を発生させない原子力発電の位置づけを議論することが必要です。国内の原発は2011年の東京電力福島第1原発事故で全て停止し、再稼働も遅れています。さらに、ロシアのウクライナ侵攻で世界のエネルギー価格が急騰し、国内でも様々な製品やサービスの価格を押し上げています。電力の安定供給は非常に大切な生活の基盤です。夏の参院選に向けて各党の原発に関する論調にも変化が見られます。

2022年5月26日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

東京電力柏崎刈谷原発

”自民党は夏の参院選の公約原子力発電を「最大限活用する」と明記する調整に入った。ロシアのウクライナ侵攻で世界的に原油価格が上昇しており、エネルギーの輸入依存度を下げて物価や電気代の高騰を抑える。日本維新の会や国民民主党も公約で原発再稼働を前面に出す方針だ。自民党は2021年衆院選の公約で、安全を確認できた原発の再稼働や小型モジュール炉(SMR)への積極投資を掲げた。参院選では原発を再生可能エネルギーとともに「最大限活用する」との表現を加え、必要性をより強調する。”

”公約とは別に発表する政策集では「可能な限り原発依存度を低減する」との考えも示す。政府にはエネルギー基本計画で再生可能エネルギーの導入を最優先する原則を掲げており、中長期的にこの方針も踏襲する。政府は主要7ヶ国(G7)と足並みをそろえ、ロシアへの経済制裁として石炭や石油の段階的禁輸を決めた。制裁の影響による原油相場の高騰と円安が重なり、物価上昇に拍車がかかっている。”

G7のエネルギー自給率

日本のエネルギー自給率は11%とG7で最も低い。化石燃料のほぼ全量を海外から輸入しており、原油の値上がりは所得の流出につながる。国内の原発は2011年の東京電力福島第1原発事故で全て停止し、再稼働も遅れている。2020年度の電源構成比率は液化天然ガス(LNG)が39%、石炭が31%で、原子力は4%にとどまる。再生可能エネルギーは20%だった。太陽光などの再生可能エネルギーは化石燃料を代替するほど普及しておらず、発電量も天候に左右されやすい。蓄電池の普及や送電線の整備はすぐには進まない。ウクライナ情勢の緊迫が長引けば、再生可能エネルギー頼みでは乗り越えられないとの懸念が強まる。”

公明党の山口那津男代表は4月の記者会見で「原発も視野に入れて安定供給の確保に努めるべきだ」と語り「安全基準をクリアすれば再稼働を認めていい」とも指摘した。物価上昇など生活への影響が出てきたのを受け、野党からも従前より強く再稼働を訴える動きが出てきた。日本維新の会は参院選公約でエネルギー価格の高騰やウクライナ情勢を理由に「安全性が確認できた原発は可能な限り速やかに再稼働する」と記す見通しだ。衆院選公約では「既存原発は市場原理の下でフェードアウトを目指す」と記述していた。今回は「長期的には既存原発で老朽化したものは市場原理の下でフェードアウトさせる」と一部表現を見直しつつ再稼働により前向きな姿勢を明示する。”

国民民主党は5月20日に発表した参院選公約で「安全基準を満たした原発は動かすとともに、次世代炉などへの建て替えをする」との文言を入れた。玉木雄一郎代表は3月、ツイッターで「国が責任を持って安全基準を満たした原発は動かすべきなのに、批判を恐れ、誰も電力の安定供給に責任を持とうとしない現状こそ危機だ」と投稿した。立憲民主党は党綱領に「原発ゼロ社会」と記載している。泉健太代表はウクライナ侵攻後、3月の記者会見で「すぐにゼロということではないにしても、できる限りの努力をして原発のリスクを減らす」と説明した。”

原発を巡る各党の主な主張

原発は再生可能エネルギーと同様に、発電時にCO2を排出しないため脱炭素の手段としては有効だ。5月23日の世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)では国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が原発の利用拡大の必要性を唱えた。キャノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹は「世界的なエネルギー危機を前に、イデオロギー議論一辺倒だった原発論争のフェーズが変わった」とみる。日米両政府は5月23日に発表した共同声明で「CO2を排出しない電力の重要かつ信頼性の高い供給源としての原子力の重要性を認識した」と盛った。海外依存度を減らし自給率を高めることは安全保障上の意味も持つ。

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