号外:廃食用油を航空燃料へ
使用後の食用油がどのように再利用されているについて、これまであまり意識していませんでした。近年、CO2排出削減を目的として、ジェット燃料や軽油に混ぜて使うバイオ燃料の原料として注目されています。このため、従来用途である配合飼料と競合し、飼料価格上昇の一因にもなっています。
2022年6月1日付け日本経済新聞に掲載された記事より、
”使用済み揚げ油など廃食用油の需要が高まっている。ジェット燃料や軽油に混ぜて使うバイオ燃料の原料として活用し、CO2の排出量削減につなげようと世界各国・企業が動いている。廃食用油は家畜のエサや工業用の原料でもあり、奪い合いに発展すれば国内価格の上昇が続く可能性もありそうだ。”
”廃食用油の世界の需要は、ジェット燃料の代替となる再生航空燃料(SAF)向けがけん引役となりそうだ。業界団体の航空輸送アクショングループ(ATAG)の推計では、2030年のSAF流通量は世界のジェット燃料の2.5~6.5%と2020年の0.03%に比べ拡大する。エネルギー大手ネステ(フィンランド)は廃食用油由来のSAFを商用化している。全日本空輸などを顧客に持つ。すでに実績があるため、廃食用油の使用拡大への期待感は大きい。ネステは2023年のシンガポールの製油所拡張などを通じてSAFの増産を目指している。”
“日本の国土交通省は2030年にジェット燃料の1割をSAFにする方針だ。定期便を運航している航空会社の2019年の燃料消費量は約1000万キロリットル。2030年時点の燃料消費量が変わらなければ、約100万キロリットルのSAFが必要になる。同省や経済産業省は4月、SAFのサプライチェーン(供給網)を整えるための官民協議会を設けた。三菱商事とENEOSは4月、SAFの事業化に向け検討に入ったと発表した。”
”需要家は世界各地から廃食用油の調達を急いでいる。運輸総合研究所(東京・港)は未利用の廃棄油脂(食用油、廃獣脂)がアジア諸国に数十万キロリットルあると推計する。触手は日本にも及ぶ。貿易統計によると、日本の廃食用油(食用に適しない調整品など含む)の2021年の輸出量は10万トンを突破した。前年を上回るのは6年連続。廃食用油の業界団体、全国油脂事業協同組合連合会(全油連、東京・文教)によると、国内発生量は年間50万トンほど。約2割が輸出に回っている計算になる。輸出価格は2022年1~4月累計で1キロ144円と前年同期に比べ7割上昇した。ただ供給には限界もありそうだ。世界経済フォーラク(WEF)が2020年に米マッキンゼー・アンド・カンパニーとまとめたリポートによると、2030年時点のSAF原料の供給ポテンシャルのうち廃食用油(獣脂など含む)の占める割合は5%にとどまる。”
”国内では粗悪品を排除し、利用しやすいようにする環境整備が進む。全油連は6月をメドに、廃食用油の日本農林規格(JAS)制定に向けた原案を農林水産省に提出する予定だ。廃食用油の発生から運搬、精製など再生に至るプロセスの規格化を目指す。全油連は「用途に見合わない品質の製品が流通するケースもあった」という。SAFなど近年の燃料用と需要拡大を規格化の追い風にする。”
”輸出拡大で国内の廃食用油の需給はすでに引き締まっており、廃食用油の奪い合いに発展する可能性もありそうだ。国内の最大の需要家は配合飼料メーカーだ。ある廃食用油業者は「大手配合飼料メーカーは3四半期連続で仕入価格を引き上げた」という。配合飼料価格の上昇圧力となる。値上がりで畜産農家の経営コストが重くなれば、畜産頭数の減少につながる可能性が高まる。飼料用の油脂の不足感は、食用豚脂の値上がりに影響している。食用豚脂は揚げ物などに使うラードの原料だ。ラードの足元の国内価格は1缶(15キロ)4190円前後と前年同期比5割ほど高い。記録のある1960年以降の最高値をつけている。SAF発の価格上昇圧力は各地に広がりそうだ。”