号外:日本の食糧問題を伝えたい、農林水産省の「ゆるい広報」

省庁の、このような取り組みはとても良いことだと思います。農林水産省は公式YouTubeチャンネルで、真面目な政策ネタもできるだけユルく仕上げた動画コンテンツを配信しています。視聴者は省庁の政策をより身近に感じることができて、好評を得ているようです。

2022年6月6日付け日経ビジネス電子版に掲載された記事より、

「生乳を廃棄することなく、乗り切ることができました」。ウシの衣装でビシッと決めた、農林水産省広報室の白石優生さん。YouTubeの農水省チャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」で1月、全国の消費者に感謝を表明した。新型コロナウイルス禍の学級閉鎖で給食も停止が相次ぎ、牛乳はピンチを迎えていた。酪農家と一体になった農水省からの懇願や、飲料メーカー・小売店の販促キャンペーンもあってどうにか消費運動が盛り上がり、飲まれた量はコロナ禍前より3%増加。この動画は視聴回数が7万9000回を超えた。”

”お堅いイメージのつきまとう官庁だが、「ばずまふ」は一気にお茶の間との距離を縮める役割を担っている。人気アニメ「プリキュア」のキャラクターとコメ消費の関係を語ったり、ひたすら職員がオムライスを作ったりと、ゆるめの内容で視聴者のスキマ時間をほっこりさせる。

発案したのは、2019年に農林水産大臣を務めていた江藤拓氏だった。「実は職員よりも大臣のほうがSNSでの情報発信に詳しく、面白くないと見てくれないだろうと号令がかかった」(安川徹広報室長)。同年9月に江藤農相が就任してすぐ、取り掛かることになった。かつても政策を伝える動画があるにはあったが、広く国民に興味を持ってもらうのは至難の業だった。”

”世界をみると、例えばノルウェーの漁業団体は職員が魚のコスプレをして踊り、目を引く。先進国で食糧自給率が最低の日本は危機的で、まず農政への関心を高めるには、ポップな手法も必要だ。職員も薄々そう感じてはいたが、霞が関の殻を破れずしり込みしていた。そこに政治が背中を押し、実現できた事例だ。”

”ばずまふは2020年1月から始まった。公式な動画とはいえ、参加したくてウズウズしている職員でも、「本業だけに集中せよ」といった雰囲気があれば二の足を踏むだろう。そこで当時の江藤農相と広報室は、まず幹部を巻き込むことにした。この番組の冒頭で流れる「ジャン、ジャン、ジャン」というメロディーは、農水省の官僚トップである末惇広行事務次官(当時)がキーボードを弾き、枝元真徹官房長(現在の事務次官)がギターを演奏している。

幹部の参加によって、正式にゆるふわ系のコンテンツをどの職員も提案しやすくなった。新しく参加したい職員は所属部署の上司から許可を得た上で、3ヶ月に1度、応募する機会がある。選ばれると広報室との併任がかかり、業務時間の2割までを目安として活動。政策を考える仕事の合間に動画を製作している。

”ばずまふに携わるのは現在、省内で20チームまで増えた。広告代理店には頼まないというのもミソだ。きっちりと編集されたプロ仕様の動画だと、逆に視聴者が引いてしまうリスクがある。省庁というハコが語るように見えると無機質になってしまうので、職員が等身大で語りかけることを大事にしたいという。

”ただ、当初はネット社会ならではの悩みも尽きなかった。官僚について質実剛健なイメージを持つ人からは「何で官僚がYouTubeなどやっているんだ」などと、批判的なコメントも届いた。それでも生身の人間が霞が関で働いていることを分かってもらいたいと、これまでのスタイルで動画を投稿し続け、理解してもらえる人は広がった。登録視聴者は約14万8000人(6月3日時点)となり、官庁公式のYouTubeチャンネルでは防衛省・自衛隊に次いで多い。今後は政策の周知にさらに結び付けられるかが課題だ。”

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