今の日本の「古着ブーム」が意味するところ

このところ古着ブームが再来しているという話を耳にします。しかし私自身はコロナ禍でもあり、関西で若者が集まるような場所へ出かけていくことはほとんどないので、あまり実感がありませんでした。下記は(株)小島ファッションマーケティングのレポートからですが、古着の販売は着実に増えてきているようです。いったん市場に投入された製品の、製品寿命をしっかり使い切ることはサステイナビリティの基本です。衣料品のリサイクルは色々と制約があって簡単ではありませんが、リユースが普及し、定着することはとても意味のあることです。新しい製品を製造販売しているアパレル企業や小売り業者にとってはありがたくない話かもしれませんが、ビジネスモデルを再検討することも必要です。

古着が定着、輸入量最高に>の項を参照

ファッションの中心地、原宿でもシャッターが目立つ竹下通りに古着店が増え始めている。明治通りでもチラホラ見られるようになった。一部は高額な家賃を払ってくれるブランドショップなどが戻ってくるまでの「期間限定」店舗だったりするが、そんな幸運はかなり先になると諦めて相場の半額以下で古着店に貸し出す大家もあるようだ。いずれコロナ禍が収まればブランドショップなどが戻ってきて家賃も回復し、古着店は消えていく運命かと思われるだろうが、そうはならないかもしれない。なぜなら、いったん街角に古着店が増えだすと、新品を扱うアパレル店が売れなくなって撤退が広がり、古着店ばかりになってしまう例が見られるからだ。下北沢などはその典型で、今や新品を扱うアパレル店はほとんど見られない。

”ちなみに古着は先進国から放出されて途上国へ流れていくグローバル商材で(中古車と似ています)、途上国に先進国の安くて良質な古着が流れ込むと現地の新品アパレルが駆逐され、アパレル産業が衰退してしまう。そんな例が少なくないので、ナイジェリアやベトナムなど古着の輸入を禁止したり厳しく制限している途上国もある。ちなみに、世界に安価な新品アパレルを大量輸出している中国は古着の輸入を全面禁止している(なんでも自国都合の一方通行です)。”

”経済・消費が停滞しているといっても、さすがに日本を途上国とは言えないが、安価で良質な古着の供給が増えると割高な新品が市場を奪われことは否めず、普段着のカジュアルなどでは新品を駆逐しかねない。実際、古着店では見知ったブランド衣料が新品時の2~3割、物によっては1割ぐらいの価格で売られているから、古着に馴染めば割高な新品には手が出なくなってしまう。

”古着というと「貧乏くさくて不衛生」という先入観を持つ人もいまだ少なくないが、それは昔の話で、今日の古着店で売られている古着は経年変化や多少の傷みはあるかもしれないが、クリーニングと消毒、検針を経た清潔で安心できる商品だ。古着はゴミから選別されているというのも誤解で、欧米から放出される古着は分別回収や寄付、事業者の廃棄によるもので、ゴミとは全く異なるルートで仕分けられ再商品化されてグローバルに流通している。”

日本でも資源ゴミの繊維・衣類として分別回収されており、行政が回収した繊維・衣類は故繊維事業者が落札して衣類とそれ以外のタオルや寝具、端布などと分別し、最も良質な古着は国内市場向け、まだ着られる古着は輸出向け、淡色の綿100%無地はウェス(機械用雑巾)向けなど、細かく仕分けられる。ちなみに、汚れた衣類・濡れた衣類が混入していれば最初に外され、行政が再回収して焼却するから、古着に再生されることはない。故繊維事業者は行政と連携して廃棄繊維・衣類の分別・再生を担うサステイナブルな事業者なのに誤解されてきた経緯があり、メディアも興味本位でそんな過去のイメージを強調するきらいがあるが、地球に優しいリユース・リサイクルが真剣に追及される今日、早々に改められるべきだろう。”

”古着の流通はメルカリやラクマなどフリマサイトで個人が販売するC2C、街のリサイクル店(「2nd STREET」などチェーン店が多い)が顧客から買い取り仕入して販売するC2B2C、ファッションストリートの古着店が主に欧米の古着を仕入れて販売するB2B2Cからなる。古着流通の大半は国内で販売されたブランドの高年式(新しい)品が多いC2CかC2B2Cで、ファッションストリートの古着店が扱う欧米の輸入古着(低年式品もヴィンテージ商品として評価が高い)は数量の7%ほどに過ぎない。ファッションストリートの古着店で売られている古着は回収ルートが清潔な欧米放出品か、国内故繊維事業者ルートでも上質品であり、クリーニングと消毒、検針を経た清潔で安心できる商品だと認識を改めるべきだろう。”

”古着ブームの再来を裏付けるデータは二つある。ひとつはリサイクル通信が毎年発表している市場規模で、2020年の衣料・服飾品(高級ブランドを除く)リユース販売額は前年から11.1%伸びて4010億円大台に乗った。2016年の1869億円からは2.15倍に拡大しており、「衣料・身の回り品」小売売上(商業動態統計)に占める割合も2016年の1.7%から2020年には4.6%に急伸し、2021年は5.5%まで拡大したと推計される。これは金額ベースの比率であり、数量ベースでは15%に迫るから、割高な新品衣料は駆逐されかねない勢いだ。

”もうひとつはファッションストリートの古着店の主力たる輸入中古衣類の急増だ。2021年は11月までの累計で39.5%増と中古衣類輸入が急増しており、このペースだと通年は8747トンと、前回ブームピークの8082トン(2005年)を超えて記録を塗り替えることになる。単価も上昇しているが11月までで877円/kgと2018年頃の水準を回復しただけで、2001年、2002年のように1500円を超えるような動きではない。マニア向けのヴィンテージアメカジがブームとなった前回(2002年の平均単価は1536円/kgだった)と比べれば、今回のブームはマニアという枠を超えて広範な客層に広がっていると見るべきだろう。

”マニア中心に盛り上がった前回の古着ブーム(2002年~06年)はリーマンショック前で景気は悪くなかったから、景気が悪いと古着が売れるというわけではないが、今回は、長年の消費低迷にコロナ禍が加わったことも、古着ブームの一因になっていると思われる。長年にわたって経済が停滞して所得が減少し(平均給与は2000年から2020年で6.5%減)、少子高齢化と不効率な行政で国民負担率が増加し(同期間で36.0%→44.6%)実質消費支出力の減少が止まらず(同期間で19.0%減)、生計が苦しくエンゲル係数が上昇し(同期間で23.3%→27.5%)、被服・履物支出の切り詰め(同期間で5.1%→3.2%)を余儀なくされる中、割高な新品から格段に低価格でお値打ちの古着に消費者の選択が流れていると思われる。

国民負担率:国民全体の所得に占める税金と社会保障費の負担の割合

”古着と同様に先進国から途上国に流れる中古車と比較すれば、古着の市場規模はまだまだ伸びると思われる。日本では年間の新車販売が500万台を割り込み、中古車は110万台が輸出され、380万台が国内で売れているから、新車と中古車は均衡してリユース率は100%近い。それは新車と中古車は1500万台で均衡している欧州も同様だ。(米国と中国は事情が異なり均衡しない)。衣料品のリユース率はまだ20%にも届かないが、自動車のように100%近くがリユースされるようになるかはともかく50%まで届けば、古着の市場規模は金額で3倍になる。生活が苦しくなったからか、エシカル消費に目覚めたからかはともかく、リユース率がそこまで上昇すれば、コロナ禍で8掛けになった新品の衣料消費はさらに半減してしまうかもしれない。そんなシナリオが現実となれば、日本のアパレル業界は一体どうなってしまうのだろうか。”

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