メタバーズで広がるファッションの未来?

「あなたにとって、服(=ファッション)とはどのようなものですか?」というような質問を受けると、うまく答えられそうにありません。元々着るものには無頓着な方です。その場その場に応じて、清潔でこざっぱりとした服装でいたいとは思いますが、自分なりのこだわりのようなものは、あまり意識したことがありません。言葉すると、「日常的に身に着ける、季節や行動目的(TPO)に応じて、必要な機能や要件を満たしている道具の一種類」というような味もそっけもないような表現になりそうです。長いことサラリーマンをしていますので、「関係する方々と一緒にビジネスに携わるのに相応しい装い」という側面には、それなりに配慮してきました。以下にご紹介する記事については、同意・納得できる部分もありますが、頭では理解できるような気がしても、どことなく違和感を覚える部分もあります。(きっと私の頭がついていっていないのでしょう・・・?)

2022年6月19日付けNIKKEI The STYLE文化時評より、

三越伊勢丹のアバターファッションショー

モードの国、フランスで今年、企業が売れ残った新品の服を廃棄することを禁止した世界初の法律が施行された。売れ残ればリサイクルや寄付をし、違反すれば罰金が科せられる。欧州のほかの国でも同様の動きがみられ、その波はいずれ日本にも訪れるだろう。これまで大量に捨てられてきた服が捨てられなくなると、ファッションのあり方はどう変わるのか。”

”新しい未来を切り開こうと、国内でも様々なプレーヤーが動き出している。都内には不要になった服を回収して繊維に戻し再び服にする循環型の店ができた。ファストの逆、注文を受けてから生産するスローブランドが登場したり、若者の街では古着の店が増えたりしている。さらに、布の切れ端を利用してつくられた日本の「ボロ文化」も、時をつなぐことで生まれる新しさに再び光が当たるようになった。一方で、デザイナーを目指す若者からはこんな声を耳にする。「環境を意識するあまり、好きな服がつくれなくなる」。現に誰からも嫌われないようにとの配慮がにじむ無難な服が増えた。廃棄が減ると同時に、クリエイティビティーが失われるとしたら、サステイナブルといえるのだろうか。

ファッション業界が仮想空間「メタバーズ」に急接近している理由がここにある。昨年、高級ブランド「バレンシアガ」が、人気オンラインゲーム「フォートナイト」内でデジタルファッションを発表した。バーバリーやグッチなど国内外のブランドもメタバーズに次々と参入する。今春には仮想空間プラットフォームの「ディセントラランド」で史上初とされるファッションウィークが開かれ、多くのブランドが参加した。仮想空間ならば、売れ残りや廃棄の問題を気にする必要もない。ファッション企業にとって、仮想空間は新ビジネスの可能性を探る場所である以上に、「廃棄の呪縛」から解き放たれて創作に挑戦できる舞台なのだ。”

IT化が遅れていたファッション業界だが、メタバーズとの相性は良さそうだ。私たちの分身となって行動するアバターの多くは人や人のかたちをしている3次元データ。会議や買い物やコンサートと交流シーンが増えるほど、自分は何者かを表すために、外見を気にするようになる。「ファッションは『私は誰か?』という問いと戯れている」。哲学者のロラン・バルトのこの有名な言葉が、自分のアイデンティティーを自由に構築できるアバターの服にもしっくりくる。”

アバターの服なんてファッションなのかと疑問に思う人もいるだろう。だが、ゲーム愛好者にとってはもう身近な存在だ。任天堂の人気ゲーム「とびだせ、どうぶつの森」にアバターの服をデザインできる機能が搭載されたのは10年前。見た目を変えるアイテムは「スキン」と呼ばれ、「カワイイ、カッコいい」などとスキン話で盛り上がる。ゲーム上では、技術の進化で声を変えられるようになり、声までもがファッションと化している。”

企業にとってメタバーズが廃棄問題からの解放につながるのなら、私たち、着る側にとっては身体(からだ)からの解放だ。ファッションは思い通りにならない身体への譲歩の繰り返しだった。それが、仮想空間では「身体から解放された瞬間、サイズや性別、文化や時代さえも超えた、自由な世界が広がる」。こう話すのは新進気鋭のブランドANREALAGE(アンリアレイジ)デザイナーの森永邦彦さん。細田守監督の映画「竜とそばかすの姫」に登場する仮想空間でコレクションを発表した。”

今春に三越伊勢丹が仮想都市で開いたファッションショーで、アバターの服のデザインを手掛けたのは都内の小学生たちだった。ファンタジー要素を取り入れた発想力は「ファッションデザイナーとして悔しいくらいに素晴らしい」(森永氏)。誰もがデザイナーになれる可能性がある。ネット上では、リアルに再現されたアバターの服が売られている。袖を通せば、現実の身体をもいとおしく感じるのではないか。そう遠くない未来、ファッションは仮想と現実の世界の橋渡し役となり、物理的な空間にも新しい風を吹き込むだろう。

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