ファッション産業は持続可能か?トップデザイナーに聞く①

2022年7月4日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事からですが、イタリアと日本を代表する創業者兼デザイナーのジョルジオ・アルマーニ、山本耀司両氏にアパレル産業の現状と未来について話を聞いています。先ずはジョルジオ・アルマーニ氏への取材分(書面インタビュー)からです。

”新型コロナウイルス禍やウクライナ紛争の勃発はファッション業界に未曽有の困難をもたらした。市場の需要をはるかに超える過剰生産やセールの前倒しなど病理ともいえる業界の慣習をリセットし、適正な状態にスローダウンする好機にしないといけない。コロナ禍に陥る以前から、業界ではあまりにも不合理な状態が続いていた。季節をかなり先取りして店頭に商品を並べるのが慣例となり、例えば真夏に毛皮コート、真冬に薄手のリネンドレスなどを売ることも珍しくなかった。新商品は3週間ほどで古いものとみなされ、すぐに別の似た商品に置き換わっていく。果たしてそんな状況を消費者が望んでいるだろうか。商品を買ってから着るまで、実に半年以上もクローゼットにしまっておくなんてバカげている。業界のスケジュールや慣例、価値観を見直すべきだ。これは業界を正常化するために課された「ストレステスト」だと考えた方がよい。”

ファストファッションの台頭は業界に多くの影響を与えた。消費者になるべく商品を多く買わせようと過剰生産が慢性的になった結果、在庫の積み上がりやセールの前倒しを招く。こんな状態が続く限り、業界として適正な利益が出ないのは当然だろう。今こそ「スローファッション」に移行すべきだと提唱したい。スピード優先をやめ、不要な生産を減らし、生地や在庫、物流の無駄を省く。セールも規律を守って適正な時期に実施する。消費者の視点をビジネスにもっと持ち込むべきだ。環境負荷は減り、持続可能な形に転換できる。

”この2年、経営するジョルジオ・アルマーニ(ミラノ)ではショーで発表する商品数を大幅に減らし、ショーも紳士服と婦人服を統合して規模を縮小するなど合理化に取り組んだ。2020年12月期の売上高は16億ユーロ(約2300億円)と前の期より25%減ったが、市場の現実に見合った結果だと受け止めている。主要コレクション(展示発表会)以外の時期に開催する小規模なプレコレクション、単なる話題作りだけの派手なショーは作り手の仕事のスケジュールを過密にするだけで意味が乏しい。巨額な投資も無駄になる場合が多い。”

”「スローファッション」の実現には業界全体の協力が不可欠だ。商品を適正規模で生産し、店頭になるべく長く並べ、改廃のリズムを実際の季節の移り変わりに合わせる。それは多くの消費者が望んでいる状態だ。個別企業だけでなく、業界のイニシアチブがないと実現しないだろう。”

”コロナ禍で非接触型サービスや仮想現実(VR)の視聴技術も急速に普及した。我が社は2020年2月に無観客開催したミラノでのショーを世界にライブ配信したほか、2021年10月にはOMO(オンラインとオフラインの融合)を初めてうたった新業態店を世界に先駆けて東京・神宮前に開店するなど販売システムの改革にも取り組んでいる。この店舗は壁に巨大なタッチパネル式スクリーンを配置し、顧客にスマートフォン画面のように操作してもらう。店頭のQRコードをスマホで読み取って商品情報を閲覧したり、注文したりできる。デジタルネーティブ世代を意識した運営を実現している。”

ただ、リアルの店舗やショーの役割が表現の基盤であることに変わりはない。服の立体的な動きを五感を通して感じ取ってもらうのはショーが最適だし、世界観を伝えるのも実店舗の役割が大きい。ウクライナ紛争の発生直後、2022年2月のショーでは音楽を流すのを急きょ取りやめ、悲劇に対する哀悼の意を示した。コロナ禍を経験したことで消費者は着心地や生地の品質などをこれまで以上に厳しく見つめるようになった。それは短期間の流行に左右されない服本来が持つ普遍的な価値であり、原点でもある。

環境を汚染する産業の代表としてファッション業界は世界から批判されるようになってしまった。毛皮の使用禁止の広がりは環境保護や動物愛護の意識の高まりに配慮したものだ。社会への責任感を意識してビジネスに取り組む努力を怠ってはならない。

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