ファッション産業は持続可能か?トップデザイナーに聞く②

2022年7月4日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事からです。日本を代表する創業者兼デザイナーの山本耀司氏へのインタビューです。

ファッション業界の仕組みはすでに限界にきていると感じる。新型コロナウイルス禍やウクライナ紛争が引き金だ。社会構造や消費行動の変化でビジネスモデルは変わらざるを得ないだろう。うまく対応できなければ、業界は「終焉の始まり」を迎えることになる。「過剰生産やセール前倒し、過密なショー日程などの習慣をリセットしよう」というアルマーニ氏の提言には大いに賛成だ。業界関係者は現状の異常さにいつの間にか慣れてしまい、負の連鎖からなかなか抜け出せないでいる。業界のイニシアティブがどこまで広がるかに注目したい。”

ただ、リセットが業界主導で進むかどうかについて私は懐疑的な見方を持っている。巨大資本やSPA(製造小売業)を強みにする大手企業が提言に従うとは思えないからだ。業界の動きより、むしろ消費者側の選択の方が今後のカギになるのではないか。服を着ることは文化であり、人生観の投影だ。広告で有名、流行の切り替えが早い、安くて便利。単にそれだけの理由が購買動機なら、あまりにも薄っぺらで情けない。そんな状態が続く限り、有能なデザイナーは育たない。”

”ヨウジヤマモト(東京・品川)は巨大資本やファストファッションと一線を画すビジネスを続けてきた。2021年8月期は売上高112億円(前期比横ばい)、純利益7億円(同45%増)と堅調だ。だが業界として真剣に変革を進めないと共倒れや淘汰のリスクが現れかねない。業界を取り巻く困難はデザイナーが海外コレクションに参加する意味も問いただす。コロナ対策で入出国手続きは煩雑なままであり、紛争でウクライナ上空を飛行できず、パリへの渡航時間も大幅に延びた。アジア市場の重要性が急速に高まり、パリを頂点にした海外コレクションの位置づけも変質しつつある。

「無理してまでパリで作品を発表する意味があるのか」。私は自問し、多彩な作風を競い合う婦人服はパリでショーを続けるが、紳士服は最近2回連続でショーの開催場所を東京に変えた。「必ずしもパリにこだわる必要はない」と思えるようになったからだ。仮想現実(VR)や拡張現実(AR)など商品を世界のバイヤーや消費者に伝える技術は急速に進歩している。今後もショーの形式はさらに多様化するだろう。コロナ禍を経験したことでパリでショーをする意味が紳士服に関しては薄れた。モード界の重心が欧米からアジアへシフトする契機になるかもしれない。”

コロナ後を見据え、新たな挑戦に取り組んでいる。最大の柱がデジタル対応の加速だ。今秋に東京、大阪、ニューヨークにOMO(オンラインとオフラインの融合)の新業態店を開くほか、7月下旬には他社製品も扱うセレクトショップ機能を持たせたユニークなウェブサイト「ワイルドサイド」も開設する。日米3か所に開くOMOの新店は物販に加えて、客をネット販売に誘導するショールーム機能も兼ね備える。「ワイルドサイド」は我が社の商品のほか、世界観を共有するアパレルメーカーや芸術家らとのコラボ商品も取り扱う。デジタル化はコロナ後のビジネスモデルの新たなキーワードになるかもしれない。”

”デジタル対応を急ぐのは、ネット経由の売上高が年24億円規模に達するなど順調に伸びているためだ。このプロジェクトは社内幹部や親会社の投資ファンド、インテグラルの発案で動き始めた。我が社が2009年に民事再生法の適用を東京地裁に申請して以来、最大規模の投資計画となる。変えるべき部分、変えてはいけない部分のメリハリを意識することが時代の荒波を乗り越えるための活力になる。私は服作りで決して妥協しないが、企業経営として変化に機敏に対応できる柔軟性も欠かせないと痛感している。昨今の円安は素材調達や縫製を日本国内で行う我が社には追い風でしかない。大きなコスト高もなく、輸出した商品は海外で割安に買いやすくなる。先行きが困難にみえても、地道な服作りと大胆な挑戦を続ければ、生き残りへの活路が開けてくるはずだ。

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