新興アパレルのSHEINに米thredUPがケンカをふっかけた訳

SHEIN（シーイン）は中国で創業されたオンライン販売に特化した新興ファストファッション企業です。現在、日本を含む世界150以上の国や地域に展開しています。thredUP（スレッドアップ）は古着をオンラインで販売している米国企業です。古着販売企業は、市場に投入された衣類の製品寿命を使い切ることで、衣類の新規市場投入量を減らし、ファッションの環境負荷を低減すると主張します。さらに、衣類の使い捨てを助長し、新規市場投入量を増やすファストファッション企業を環境負荷が高いと批判します。その一方で、ファストファッションの製品が古着市場で流通していることも事実です。どちらもファッションビジネスなのですが、やはり問われているのは、我々消費者の環境に配慮した消費行動そのものだと思います。

2022年7月13日付け日経クロストレンド電子版に掲載された記事より、

”ファストファッションが地球を破壊していることに世界が目覚め始めた頃、新たなプレーヤーが出現した。今や1000億ドル（約13兆円）の企業評価額を与えられている中国のファストファッション小売り大手SHEIN（シーイン）は、ファッションメディアから無駄な過剰消費を助長しているとしてやり玉に挙げられた。そして今度は米スレッドアップが争いに加わった。”

”カリフォルニア州オークランドに本社を構え、古着委託販売サイトを運営するスレッドアップは2022年6月下旬、ベイエリアの顧客にプッシュ通知の案内を送り、その週末にサンフランシスコに出現するシーインのポップアップショップをボイコットするよう呼び掛けた。ファッション産業のプレーヤーが同業他社に対して、このような直接的な攻撃を仕掛けるのは極めて稀だ。”

”シーインは2008年に中国で創業されたが、米国市場に進出してからのこの5年間、驚異的なペースで成長した。売上高は2018年の20億ドル（約2600億円）から2021年の157億ドル（約2兆410億円）へ急増。今や1000億ドルに上る企業評価額は、ファストファッションの草分けであるスウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ（H&M）と、ZARA（ザラ）などを展開するスペインのインディテックスの株式時価総額の合計を上回る。2022年5月には、米国のアプリストアで米アマゾン・ドット・コムを抜き、ショッピングアプリの分野で首位に立った。”

”シーインのビジネスモデルの柱は、一つにはスウェットショップ（「搾取」工場）を使っているために、ファストファッションの競合他社よりも大量に、かつ質の低いトレンディーな洋服を世に送り出し、販売に結びつけられることだ。英国のファッションデータ分析企業エディテッドの調べでは、2022年1～4月期にシーインは31万4877種類の新作を発表した。この数はH&Mの4414種類、ZARAの6849種類という新作数をはるかに上回るものだ。シーインはSNS（交流サイト）上でのマーケティング術も習得し、Z世代市場を捉えた。この事実は、インフルエンサーがTikTokやInstagramでシーインに洋服を一度に何十種類も着てみせる「SHEIN haul」として知られるようになった行為にはっきり見て取れる。”

”この驚異的な大量生産は、地球にとって壊滅的な影響を及ぼす。これほど大量の衣類を生産し、世界中に配送するには、莫大な資源を要する。また、大半のアイテムを15ドル（約1950円）以下で販売することで、消費者は洋服を「使い捨て商品」として考えるように促される。シーインはここ数年、米国各地でポップアップショップを展開してきた。同社が、スレッドアップの地元地域であるサンフランシスコの大型商業施設エンバーカデロセンターでポップアップショップを開くと発表したときに、スレッドアップは行動に出ることを決めたという。”

”スレッドアップは自社を、ファストファッションに代わるサステイナブル（持続可能）な存在として位置付けたいと考えている。同社は日々数百万点の古着を消費者から受け取っており、オンライン上でリセールする前にこれらの商品を整理する巨大処理施設を建設してきた。そのうえで、シーインのようなブランドと競争できるよう、こうしたリユース商品に安価な値段を付ける。販売する古着1点当たり数ペニーしか稼げないが、年に何億点も販売するため、年間2億5180万ドル（約327億3400万円）の売り上げを生み出すことができている。スレッドアップは、洋服のリユースは新しい衣類を生産するために必要な水や天然資源の使用とCO2排出を避けるため、自社のビジネスモデルはファストファッションより環境破壊が少ないと主張する（それでも国内各地へ洋服を配送するためにCO2排出は避けられない）。”

”理論上は、スレッドアップはシーインの絶え間ない衣類生産から恩恵を得られる。消費者がサイトでこうした商品を売れば、それらがリユース商品として生まれ変わり、回りまわってスレッドアップにさらに多くの売り上げを生み出すからだ。そして実際、スレッドアップはサイト上でシーインの洋服を販売している。スレッドアップは、自社のビジネスは市場に出回っているものの反映であり、スレッドアップのミッションは、洋服が埋め立て地に行かないようにすることだとしている。”

”それでもスレッドアップは、シーインに反対する立場を鮮明にする価値があったと考えている。そうすることで自社のビジネスをサステイナブルな存在として印象付けることができるからだ。また、賢いマーケティング作戦でもあった。顧客にシーインのイベントをボイコットするように呼びかけただけでなく、新規顧客には初回購入について40％の割引と配送無料サービスを提供したのだ。”