欧州が示唆するアパレルの未来

EUは地球温暖化対策を、「欧州グリーンディール政策」として推進し、温暖化への対策だけでなく、域内産業の競争力を強化し、循環型経済への移行を目指しています。ファッション産業についても同様の議論が進められていて、2022年3月には「EUテキスタイル戦略」が発表されています。環境負荷が高いと言われるファッション産業も、持続可能な産業として再構築することを求められています。その一方、日本では個々の企業努力は見られるものの、業界全体としての対応は遅れているように思われます。

2022年11月1日付け繊研新聞に掲載された記事より、

“今年に入り欧州ではファストファッションのサステイナビリティ(持続可能性)を巡る議論が白熱している。発端は2022年3月に発表されたEU(欧州連合)テキスタイル戦略だ。EUテキスタイル戦略とは、2019年に始まった欧州グリーンディール政策のもとで進める循環型経済行動計画の中で検討された繊維・アパレル分野におけるEUの全体方針である。

EUテキスタイル戦略

“ここで明確に示されたコンセプトが「脱ファストファッション」だ。具体的には2030年までにEU市場の繊維製品は、高耐久性、リサイクル可能、再生繊維による製品を大半とし、事業者は販売後の製品のライフサイクルまで責任を持ち、リユース・リペア・リサイクルを基本とした循環型社会に移行することが求められている。

“ご存じの通りファストファッションは大量の製品を作るため、必然的に環境負荷が高いビジネスモデルだ。特に、物作りの過程から出るCO2排出問題は悩ましい。世界のアパレル企業で最もCO2を出している企業はH&Mで約1750万トン(Scope1・2・3の合計値、2020年度)、2位はインディテックスの約1500万トン。LVMHグループの排出量が約475万トンであることを加味すると、大量に物を作るファストファッションは分が悪い。また、CO2の多くがScope3の物作りから排出されているが、2030年に向けた削減目標も20~30%にとどまっている企業が多く、その削減が難しいことがうかがえる。”

“このようにファストファッションの本質的な課題、カーボンニュートラルへの道筋が見えない中で、企業活動に対する当局の目は厳しさを増している。英ASOS(エイソス)は昨年Scope3まで含めた2030年のカーボンニュートラルを市場に宣言した。低迷する株価にESG(環境・社会・ガバナンス)投資を呼び込みたい狙いが見え隠れする。一方でASOSは大量のファストファッションPB製品を販売しているが、Scope3の効果的な削減策は発表されなかった。そうしたところ、2022年7月イギリス当局により、根拠に乏しいカーボンニュートラルの発表、すなわちグリーンウォッシュの疑いで捜査が入っている状況だ。

H&Mも2022年7月、同社のコンシャスラインのマーケティングが実際の環境負荷よりも低いようにアピールしたグリーンウォッシュであるという訴訟が、ニューヨーク連邦裁判所に提出され話題を呼んだ。9月にはオランダ当局が、同社によるコンシャスチョイスなどのサステイナビリティ関連の主張や根拠、そしてそれらが消費者にもたらす便益に関する説明が不十分だとして、該当ラベルの取り外しと50万ユーロの損害賠償支払いを要求。H&Mはコンシャスラインの販売を欧州で一時的に見合わせた。このような動きを鑑みるに、欧州は本気で脱ファストファッションを目指し、循環型社会への移行を促している。

“このような流れの中で、ファストファッション寄りのアパレル企業は何をすべきか?抜本的な解決策を示すことは難しいものの、少なくとも三つのイノベーションを組み合わせ、大量販売依存から脱却し、環境負荷低減を目指すべきである。第1にマテリアルイノベーションである。アパレル企業のCO2排出の多くはScope3の物作りから出ており、その半分以上が素材から生じている。素材におけるリサイクル技術のイノベーションと、環境負荷が低く生分解される新素材バイオマテリアルの開発・利用が鍵となる。今年、ザラを擁するインディテックスがフィンランドの再生繊維スタートアップ企業のインフィニテッド・ファイバーに約1億ユーロの投資をしたように、この領域は投資とイノベーションの誘発が加速化している。”

“第2は、サービスイノベーションである。サブスクリプションなどのサービスやリセール、二次流通など環境負荷の低いサービスの割合を増やし、新品の物売り一辺倒から脱却することが環境負荷低減へ向けた鍵となる。H&Mをはじめ多くのグローバルアパレルがリセールなどの二次流通に参入しているのもこの流れの一環である。最後は、デジタルトランスフォーメーションである。デジタルをサプライチェーンで効果的に活用し環境負荷の可視化と低減を図ること、物理的な環境負荷のかからないデジタルファッション市場でビジネスを生み出し成長することが鍵となる。”

日本はアパレル業界の脱炭素やグリーンウォッシュに関する取り組みについて、出遅れている。他方、脱炭素はグローバルで協同して取り組まなければならない社会課題であり、今後日本でも圧力が増してくることは必至である。脱炭素を始めとするグリーントランスフォーメーションに真剣に取り組み始めるべきではないだろうか。

*Scope1・2・3=GHGプロトコルにより分類されるCO2排出の分類。Scope1は企業の設備・所有物からの直接排出量、Scope2は他社発電の電力使用に関する間接排出量、Scope3はScope1・2以外の企業活動から生じる間接排出量。

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