号外:欧州、「飛び恥」で夜行列車ブーム

欧州で移動手段としての夜行列車が復活しているという話題です。忙しい現代人にとって、短時間で移動できることは確かに便利です。日本でも一部の豪華列車を除いて、夜行寝台列車はほとんどなくなってしまったのではないでしょうか。しかし、単なる「移動」と「旅」は別物ですよね。少しだけ心と時間に余裕を持って、昔のように移動を楽しむ「旅」があってもいいのではないでしょうか。欧州の場合は、CO2排出抑制との関係で夜行列車が再注目されているようですが、鉄道の旅を見直すきっかけになれば素敵なことだと思います。

2022年11月26日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

オーストリアの夜行列車「ナイトジェット」

“欧州で夜行列車がブームを迎えている。夜行を運行させてから利用者が6倍になった区間もあり、便数増や路線開設の動きも相次ぐ。多量のCO2を排出する飛行機の利用を「飛び恥」とする風潮が広がっていることが一因で、公務員の長距離出張に夜行列車の利用を求める動きもでている。各国政府の支援を追い風に、さらに利用者は増え続けそうだ。

「夜行列車は予約でいつも満席で、予想以上の売れ行きだった」。スウェーデンの長距離国際列車の運行会社スネルトーゲットの販売担当者は明かす。同社は2021年6月にスウェーデンのマルメからドイツのベルリンをつなぐ路線を、ストックホルム-ベルリン間の夜行路線に衣替えした。すると、乗客数は過去の6倍の水準に跳ね上がり、夏には寝台車のベッドも増設することとなった。利用者はこれまで12万人を超えており、増え続ける需要に対応するため2023年には現在220日としている年間の運行日も240日に増やす方針だ。”

オーストリア連邦鉄道(OBB)も2021年5月、夜行列車「ナイトジェット」をウィーンとブリュッセル(ベルギー)間で週3回の頻度で再開した。現在、ウィーン-ローマ、ウィーン-アムステルダムなど20の夜行路線を運行している。利用者数はまだ発表されていないが、OBBのアンドレアス・マッテ最高経営責任者(CEO)は「この夏は(夜行を含む)長距離区間で過去最多の乗客数を記録した」と語る。同社は欧州の中心部に位置する地の利をいかし、各国の鉄道会社と夜行路線の復活に向けた協議を進めている。ネットワークの拡大に向けてすでに33のナイトジェットの寝台車両を発注しており、2026年までに年間利用者を現在の倍の300万人に増やす目標も掲げている。”

近代的で快適なナイトジェットの寝台車両

フランスも2020年にマクロン大統領が夜行列車網の復活を目指す方針を表明。2021年5月にはパリ―南仏ニースの夜行路線を復活させた。同年12月には新たな夜行列車の導入を柱とした鉄道改修計画を発表しており、2020年代後半までに8億ユーロ(約1100億円)をかけて300の寝台車両を投入する予定だ。“

“格安航空会社(LCC)の台頭によってすたれる一方だった夜行列車の復活は、気候変動問題に対する市民の意識の高まりが背景にある。多量のCO2を排出する短距離の航空機利用を「飛び恥」とする風潮が高まる中で、夜行列車は「持続可能な旅行」と同義語になったという。英調査会社ユーガブが2021年にドイツやスペイン、フランスなど欧州5ヶ国で実施した調査によると、夜行列車の利用に前向きな回答者は全体の69%を占めた。EUや各国の政府機関も公務員に鉄道利用を促している。欧州委員会の職員はすでにウィーンとブリュッセルの出張移動では夜行列車を使うよう求められるようになったという。”

“普及に向けては課題も少なくない。東欧やバルカン半島の諸国では鉄路の老朽化が進んでおり、ネットワーク拡大の阻害要因になっている。コンサルティング会社SCIによると、欧州の寝台車の3分の2は新造してから40年超の古い車両で、安全性の確保のためにも近代化に向けた多額の投資が必要になる。”

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