号外:イケア、もう一つの顔は「再生可能エネルギー電力会社」

イケア(IKEA International Group)は、スウェーデン発祥で、世界各地に出店している世界最大の家具量販店です。関西では神戸市ポートアイランドと大阪市鶴浜に店舗があります。取り扱っている商品は、価格が比較的安価に設定されていて、現代的なデザインで、客が自動車で持ち帰り可能な半・組立家具を自社開発して販売しています。私も何度か神戸の店舗を訪れたことがありますが、店内を見て回るだけで楽しくなりますし、雑貨類も豊富なので、ついつい衝動買いをしてしまいます。またイケアは、サステイナビリティー(持続可能性)を徹底的に追及する企業としても著名です。しかし、ここまで取り組んでいるとは知りませんでした。

2022年12月15日付け日経ビジネス電子版に掲載された記事より、

イケアの「サーキュラーハブ」

“スウェーデン・エルムフルトにあるイケア店。レジの近くに型落ちの製品や購入者から買い取った中古品を扱うエリア「サーキュラーハブ」があった。バックヤードには様々な製品用の木材やねじなどの部材をストックしている。商品の状況に応じて、部材を取り換えて修理する。2021年には世界で15万5000点の中古品を買い取った。消費者は中古品を持ち込む前にネットでおおよその買い取り価格を確認できる。商品の状態を「ほとんど傷がない」「小さな傷がある」「大きな傷がある」の3段階に分け、それぞれ販売価格の5割、4割、3割程度で買い取る。ダメージが大きく修理が難しい商品などは買い取れないという。”

“当初はスウェーデンの一部店舗にしかなかったサーキュラーハブを、今や世界中の多くの店舗に展開。英ロンドンや東京の店舗にもある。中古品を引き取り、修理できる拠点も増やしつつある。一般的にこの再利用事業は、イケアのビジネスモデルの脅威になり得る。多くの消費者が中古品を優先的に購入すれば、新品の販売量が減少する可能性があるからだ。それでもイケアは引き返す気は毛頭ないようだ。イケア運営会社CEO(最高経営責任者)のジェスパー・ブローディン氏は、「恐れようが恐れまいが、中古品の人気は大変高まっている。我々はそれを自分たちのビジネスモデルに入れ込む方法を模索している」と語る。”

“イケアは温暖化ガスの吸収量が排出量を上回る「クライメートポジティブ」を2030年に達成するという大きな目標がある。これはただ温暖化ガスの排出量を下げただけでは達成は難しい。再生可能エネルギーの利用拡大で、吸収量をふやさなければならない。ではどうするか。通常の企業であれば、工場や店舗に太陽光パネルを設置したり、外部から再生可能エネルギーを調達したりするだろう。だが、イケアが求める規模はけた違いだ。自ら再生可能エネルギー事業に投資し、発電所を運営し、電力小売事業も展開している。もはや電力会社と言っていい。”

イケアの風力発電所

2009年から29億ユーロ(約4200億円)を投じ、17ヶ国に575基の風力発電機と20の太陽光発電所を保有している。発電量はトータルで2.3ギガワット、原子力発電所2基分に達する。2021年には自社の全ての運営に必要な電力使用量の76%を再生可能エネルギーで賄い、2025年には100%にする計画だ。

難しいのは、自社で再生可能エネルギーの利用率を100%にしてもクライメートポジティブは達成できない点だ。取引先の電力使用量があるからだ。通常は取引先に温暖化ガス削減を要請するだけだが、イケアのアプローチは違う。取引先の温暖化ガス削減の支援に自ら乗り出しているのだ。イケアが直接取引する1600のサプライヤーのうち、まずポーランドと中国、インドの企業の再生可能エネルギー導入を支援。地域性や資金力の問題から、再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の改善が難しい場合に備え、1億ユーロ(約140億円)の資金支援枠を用意。金融機関より低金利で設備導入のための融資をしているという。

“例えば、ガラスや陶器を生産するサプライヤーはこれまでガスを使っていたが、イケアの支援を受け電化にシフト。再生可能エネルギー調達も増やして温暖化ガス排出量を大幅に減らした。欧州や南アジア、東アジアのサプライヤーが太陽光パネルを導入する際には資金支援をした。同事業を率いるインター・イケアのアンドリアズ・ランジェル・アーレンズ氏はもともと仕入れ部門に在籍し、頻繁にサプライヤーを訪問していた。その知見を生かし、今の担当者と密接に連携を取りながらサプライヤーの資金ニーズを把握している。同氏は「サプライヤーと長期契約を結んでいるからこそ価値観を共有できる」と話す。”

イケアは2030年までにサプライヤーを含めて電力使用量の100%を再生可能エネルギーにするために、65億ユーロ(約9400億円)を投じる予定で、小売会社としては規格外の規模である。リサイクル素材で商品を作る、全ての事業運営で使う電力を100%再生可能エネルギー由来のものに切り替えるなど、温暖化ガスの排出量削減に全方位で取り組むイケア。消費者の行動もターゲットだ。具体的には「消費者の移動や配送に関する温暖化ガス排出量を2030年までに2016年比で50%にすることを目指す。達成には店舗の在り方を見直さなくてはならない。郊外の大型店が中心だったイケアが、新たな店づくりに試行錯誤している。”

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