衣料品生分解処理の課題:堆肥と堆肥の安全性、リサイクルか?

前回、堆肥中での生分解処理についてご紹介しました。自然環境に近い形で、条件を満たした廃衣料を処理する方法です。処理するために特別なエネルギーを必要としませんから、環境負荷の低い、サステイナブルな処理方法です。この生分解処理についてもいくつかの課題があります。

①堆肥の安全性:

生分解性プラスティックについては、生分解させる前提で開発されていますから、生分解の前後で人体や環境に悪影響を及ぼさないことを各メーカーが開発段階で確認しています。衣料に使われる生地は染色されています。衣料は人の肌に直接触れるものですから、人体に悪影響を及ぼすような染料は使われていません。ポリエステル繊維には(生分解性の有無に関わらず)分散染料という染料が使われています。分散染料で染色されたポリエステル生地の生地重量に対する染料付着量はおおよそ下記のようになります。

淡色(水色):微量(測定不能)

中間色(紺):0.4%程度

濃色(黒):0.9%程度

したがって、生分解性ポリエステル100%の生地で作られた紺色の服1トンを堆肥中で分解処理するということは、4kgの紺の分散染料を堆肥の中に投入することになります。分散染料は高分子化合物です。そのままでは人体に悪影響がないことが確認されていますが、実は染料も堆肥中で分解されます。分解される程度は染料によって様々なようです。(分散染料に限らず、染料の生分解性についてのデータはあまり揃っていません)分散染料が堆肥中で生分解されたときに出てくる生成物は堆肥および周辺環境に対して安全なのでしょうか。染料としての安全性は確認されているので、生分解後も大丈夫だと思うのですが、実はこの問いに対する明確な回答はありません。詳細な確認試験を実施した例がないのです。(少なくとも私は実施例を聞いたことがありません)

ポリエステル繊維には分散染料が使われますが、綿には反応染料が、ウールには酸性染料が使われます。また繊維の染色加工では、染料以外にも使われる薬剤が色々あります。例えば帯電防止剤や撥水剤のようなものです。これらが微量ではありますが、生地に付着しています。それぞれの人体への安全性は確認されていますが、生分解した場合の安全性についての詳細なデータは揃っていないようです。

それでは、生分解処理可能な廃衣料を堆肥中で処理した場合の処理後堆肥の安全性や堆肥場周辺環境への影響を確認するためにはどうすれば良いのでしょうか。生分解処理のために堆肥中に投入される全ての材の生分解前後での安全性を確認できれば良いのですが、それは膨大な作業になりますし、あまり現実的ではないようです。ひとつの方法は、生分解処理後の堆肥を継続的に分析することです。日本では、土壌汚染対策法農用地土壌汚染対策法によって、土壌や農用地の安全性を確保するために特定有害物質を指定し、その基準値を定めています。堆肥を指定機関へ持ち込んで分析することで、その堆肥が土壌汚染対策法や農用地土壌汚染対策法の基準に適合しているかどうかを確認することができます。継続的にこの確認作業をすることが、現時点では最も現実的な方法と思われます。

特定有害物質と基準値

通常の堆肥場では、完熟した堆肥は園芸肥料として販売されたり、周辺農家が肥料として利用したりします。堆肥中分解処理を実施する堆肥場では、発酵中の堆肥が常時必要になりますので、完熟させることなく、常時新鮮な堆肥(畜産農家からの排泄物)を追加してゆくことになります。したがって生分解処理後の堆肥が肥料として使われることにはならないのですが、この管理を徹底することでオペレーションの安全性を確保できると考えられます。サステイナブルであることと同時に、安全性の確認は極めて重要です。

②生分解処理はリサイクルか?:

リサイクルとは使用後のものを何らかの形で再利用することです。生分解処理は廃棄物を堆肥中で分解して消滅させる処理です。再利用するわけではなく、また前述のように分解処理後の堆肥を肥料として利用することも想定していません。したがって、再利用するという意味でのリサイクルには該当しません。ただ焼却することと比較すれば、簡便な施設で、あまり環境負荷をかけずに廃棄物を処理できますし、一定割合でCO2の排出も抑制できます。

現在のリサイクル推進に関係する制度、例えば産業廃棄物の「広域認定制度」や「グリーン購入法」(国や自治体が重点的に調達を推進すべき環境物品等の分野・品目(特定調達品目)と、その「判断の基準」を定めたもの)は、当然のことですがリサイクルすることが前提になっています。したがって現在の制度では、堆肥中生分解処理するものはこれらの推進制度の対象とはなっていません。生分解素材や生分解処理を普及させてゆくためには、この点については一考が必要と思われます。

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