衣料品を回収、リユース、リサイクルして「環境に配慮するという価値」

これまでに使用後衣料品をリサイクルするためには、回収やリサイクル処理自体に手間やコストがかかることをご紹介してきました。これらの手間やコストが足かせになってなかなかリサイクルが進まず、一部の合繊メーカーやアパレル企業による限定的な対応になっているのが現状です。しかもリサイクルした製品(マテリアルリサイクル)は用途が限られていること、リサイクルした原料(ケミカルリサイクル)による再製品化についても、各メーカーの生産・品質管理面での制約があり、なかなか一般的に(自社品、他社品、国産品、輸入品を問わず)大量に一括処理することが難しいという事情もあります。回収やリサイクル処理の手間やコストを考えると、無理してリサイクルするよりも、バージン製品(未使用品)を使用する方が低コストで品質も安定しているという意見もあります。

その一方で、地球温暖化による環境破壊が進行しつつあり、環境に配慮すること(サステイナビリティ)が私たちにとって差し迫った課題であるという認識も共有されてきています。廃棄物のほとんどが焼却される日本の場合、廃棄物を削減して温室効果ガスの排出を抑制することは重要なテーマです。衣料品もほとんどが焼却される廃棄物になりますが、リデュース、リユース、リサイクルを促進することによって、廃衣料の焼却を抑制することは可能です。衣料品における環境配慮と経済合理性を相反するものとして捉えてしまうと、この議論は暗礁に乗り上げてしまいます。どちらも大切な概念ですから、多少の不便や不満は抱えながらも、なんとか両立させてゆく方法を考えてゆかねばならないと思います。

初回で日本における衣料品の市場規模についてご紹介しました。1990年(総人口:123.6百万人)の国内アパレル市場規模は数量で20億点、金額で15.3兆円でした。2016年(総人口:126.9百万人)では同40億点の10.4兆円です。この間に衣料品購入単価は60%程度に下落していると言われています(経済産業省製造局生活製品課資料より)。その結果、この間に私たちが国内で衣料品に支出した金額は4.9兆円/年も減少しています。

衣料品の市場規模とリサイクルの現状>の項参照

1990年はバブル景気の終盤で、国内は好景気に沸いていました。20代の若者が1着20万円もするスーツを平気で買っていた時代です。したがって15.3兆円という支出額は少し割り引いて考える必要があるでしょう。バブル景気が崩壊した後の平成の時代は「失われた30年」とも言われています。2008年にはアメリカの投資銀行であるリーマンブラザースの破綻をきっかけに世界的な金融危機(リーマンショック)もありました。消費者は発表される経済指標が示すほどの景況感を実感できず、どちらかといえば節約志向が強い消費行動が現在まで続いています。したがって、2016年の10.4兆円という支出額はやや保守的な水準だと思います。消費税は1989年に3%で導入され、その後1997年に5%、2014年に8%へと増税され、2019年には10%になります。この間にアパレル企業は素材メーカーや縫製メーカーと連携して、素材調達や縫製(海外縫製)、物流といったサプライチェーン全体を再構築し、品質の良い衣料品を大量生産することでコストを抑え、消費者の利便性を向上させてきました。その努力と成果は素晴らしいことだと思います。家計支出の観点から見れば、少なくとも衣料品に対する支出はずいぶん軽減されたことになります。もちろんこの間に教育費や通信費(パソコン、携帯電話やスマートフォン)のように増加した支出もありますから、家計が楽になったということではないでしょうが。しかしここに衣料品への支出を少しだけ増やしてもらう余地を見出すことはできないでしょうか。

衣料品を回収、リユース、リサイクルすることは「コストアップ」ではなく「環境に配慮するという価値」(サステイナビリティ)を付加していると考えることはできないでしょうか。そしてこの新たな付加価値を実現するために、衣料品への支出を少し増やしてもらうことはできないでしょうか。

着数をたくさん購入したり、高級品を購入したりするのではなく、普通の衣料品に「環境に配慮するという価値」を加えることに(リユースやリサイクルを促進してゆくことに)少しだけ支出してもらえれば、色々な取り組みの可能性が広がると思います。そのためには先ず「環境配慮という価値」の内容(リユースやリサイクルの仕組みと意義)をわかりやすく説明し、それを実現するための道筋を示し、その価値が大切なものであることを理解してもらうことが必要です。価値の分からないものに、誰もお金を使ってはくれませんからね。消費者に「環境に配慮するという価値」を理解してもらうためには、地道な活動を継続してゆくしかないと思います。そしてそのような活動に携わっている方々はたくさんいらっしゃいます。

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